二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 日和光明記 —紅の華・宇宙の理— ( No.14 )
- 日時: 2010/01/31 18:50
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: JFNl/3aH)
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「おお……かみ?」
ふらっと、そのオオカミが動いた。一歩踏み出すたびに輪郭が揺らめく。本当に燃えてるようだ。なんとも美しく、妖しい。
遠目でわからないが、まっすぐに鬼男をめがけて来るように思われた。
「妖か……?」
刹那、鬼男は心臓が叩かれたように跳ね上がるのを感じた。
息があがる。心臓はバクバクと早鐘を打っているのに、徐々に血の気が下がっていって、わけもなく全身がガタガタと震えだした。
ゆっくりと近づいてくるオオカミ。歩むたびに周りの大気が反応した。
——コワイ
自分を見つめる紅玉の瞳が、とてつもなく恐ろしい。
——コワイ
自分の中にある本能が、大音量で警告した。
それでも鬼男は怯まず、じっとオオカミを睨み返した。すると彼の金目に変化の兆しが見え出した。
波紋が広がるように、瞳の真ん中から深紅に染まり出したのだ。それに続くように、短髪も美しい灰銀色に変化した。
瞬く間に鬼男の容姿は金から銀へと変貌をとげた。
牙を剥き、爪を尖らせる。
心音が耳の奥で大きく鳴り響く。それを聞いていると、自分の脳裏がさえていくのを感じた。
妖気はオオカミの足元から染み出ている。まるで蒸気が湧いているようだ。
ヤツが出す妖気が、今まで見てきたどの妖よりも格が違うと訴えていた。
雑鬼ではないことは確かだ。ならば魔物か? だが魔物が手下もなしに単独行動するとは聞いたこともない。
それに、そこら辺の妖にはないこの感じはなんだ? まるで精霊のような澄んだ姿をしている。人間を操るための罠だろうけど……どこか違う。
『どうした? 番人よ』
声がした。耳にではなく、頭の中に直接。
気づけば妖は数歩先にまで迫っていた。妖気が首を締め付ける。苦しい。だが視線を離してはいけない。一瞬にして殺られてしまう。
鬼男が闘気を走らせると、オオカミはそれを楽しんでいるのか、ニタリと笑った。
『“鬼子”……か。少しは出来るヤツと見た』
「そりゃどうも」
声を絞り出して答えた。この一言で精一杯だ。
『そう緊張せずともよい。我はお主と話すために参いっただけだ』
鬼男は瞬きをした。話すだって? 襲撃にきたのではないのか?
『なぜ我がそのようなくだらんことをしなければならんのだ? 他愛もない。そんな余裕など無いのだよ』
脳裏を読まれたのだろう。オオカミがやれやれと首を振る。
「ならなぜ来た。答えによればお前を滅さなくてはならない」
鬼男が脅迫したにも関わらず、当のオオカミはふっとほくそ笑んだ。
『今のお主がいえる言葉か? 指一本すら動かせぬというのに』
クッと声をあげる鬼男。ヤツのいう通りだ。今の自分じゃまともに戦えそうにない。それに、勝てる自身がなかった。
鬼男は仕方なく肩の力を抜いた。
『物分かりのいいヤツだ。まぁ、こんな空気じゃ弾む話しも弾まんだろう。スマナカッタ』
オオカミがすっと腰を下ろすと、不意に身体を締め付けていた呪縛がろうそくのように消え去った。これがどういうことかおわかりだろうか。猛獣に繋いだ鎖を自ら解き放つことと同じである。
突然の変心に唖然としながら、鬼男は強張った手を恐々と動かしてみた。尖った爪が擦れ合うたびに透き通った金属音をたてる。
不自由なく活動できることを再度確認すると、疑わしげにオオカミを見た。
彼は小馬鹿にしたような目つきで大人しく鎮座したままであった。
『主、その調子ではこの先やっていけんぞ? 案外力も見かけ倒しなのかもな』
「妖に心配される義理はない。窮地に陥ったとなれば、今以上発揮できる」
冷淡な物腰の反面、内では苦笑を浮かべていた。これでは馬鹿上司の言い訳と変わりないじゃないか。
すると、ふむとオオカミは目をつぶった。
『“妖”……か。そう呼ばれても仕方あるまい。だが思い上がるなよ? 我の同胞に同じ口をきいてみろ。一瞬にしてソテーか千切りにされるからな』