二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 日和光明記 (現在訂正中) ( No.45 )
- 日時: 2010/01/31 19:30
- 名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: JFNl/3aH)
- 参照: http://noberu.dee.cc/novel/bbs/niji/index.cgi
「あ、あの……大王、その“紅りん”っていうのは……」
ネーミングセンス無さすぎ、と心の中で付け加える。だが自分の友人にも同じようなセンスを持つ人物が居たことを思い出し、またも心の中で嘆息する。まぁ彼のことだから、理由なんて大して無いだろう。
当然鬼男の秘かな悪口に気付く様子も無く、閻魔はぱっと顔を上げた。
「あれぇ、分かんない? だから、髪も眼も綺麗な紅色だから“紅りん”。これで決まりでしょっ」
だが京一郎は依然として空を見たままだ。
負けじと閻魔が顔を擦り寄せる。
「ねぇ紅りん〜。なんなら“紅ノスケ”でもいいんだよぉ〜?」
馬鹿の文字が似合いそうな彼だが、その正体は泣く子も黙る閻魔大王。しかし鬼男は、彼のそういった態度を目にする度にいつも疑ってしまう。死者の裁判を行う大王が、こんな天然馬鹿で良いものだろうか。そして思う。もしかして、それもこれも、自分に対しての気配りなんじゃないのか、と。
彼——閻魔大王は、(お世辞で言わせれば)その天真爛漫で愛嬌のある外見とは全く別の、冷たく恐ろしい本性を持っている。鬼男は、初めて彼の真の姿を目撃した時、恐ろしくて数日間口が利けなかった頃があった。
閻魔は言った。
「鬼男君は無理しなくていいから。——オレの傍に居てね」
その言葉の裏に隠された真理は理解し難いが、彼は自分を必要としている。冷酷な冥府の王ではなく、明るく気さくな閻魔として。
だから自分もそう接している。馬鹿な上司に突っ込む、辛辣な部下として。
「ですから何で“紅”が付くのですか」
「いいじゃん いいじゃん。ねぇ紅ノスケ〜、鬼男君もそう言ってるんだしさー、もうそろそろ本名、教えてくれてもいいよね?」
その時、男の瞳に光が差した。ふっと向けた顔が、閻魔を捉える。
「えっ、何の話です?」
「愛称もいいけど、本名も知りたいな〜って話だよ」
沈黙が蔓延り、重々しい空気が流れ込んだ。閻魔が質問してから何分たっただろうか。男は覗きこむ閻魔の顔から堪まらず顔を反らし、目元に影を落とした。
「……“紅”」
「へ?」
唐突に発せられた言葉が聞き取れず、反射的に漏らす二人。
数秒あいだを置き、男は晴れやかに笑った。
「どうぞお好きにお呼び下さい。それでも言い難ければ……」
謎めいた口調。彼の——癖。
「私の名は京一郎。『壬生 京一郎《みぶ きょういちろう》』と申します」
そう言った彼の顔は、どこか……悲しげだった。