二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 日和光明記 —紅の華・宇宙の理— ( No.9 )
日時: 2010/01/31 18:49
名前: キョウ ◆K17zrcUAbw (ID: JFNl/3aH)

【其之二 目下の逃走】

 翌日。本来は自由行動が許される時間帯でありながら、閻魔は監禁状態に置かされていた。自室ではなく、玄関口——仕事場にだ。
 閻魔は恐る恐る横を見上げた。自分を逃さんと監視する鋭い視線が合わさる。
 昨日、鬼男の怒りが一時頂点に達し、与えられた罰は『一日外出禁止令』。自室はおろか、立ち上がることですら容易には許してくれそうにない。
 閻魔の生き地獄であった。
 これといって仕事も無く、ただ黙って座ってるだけ。時間は刻々と過ぎていった。

「ねぇ鬼男君? いつまでこうしてればいいのかな……?」

「明日の日入りまでです」

 瞬時に即答された。
 しばしの沈黙。彼にとって、この空気はキツかった。

「トイレ行きたいなぁ」
「行かなくても大丈夫でしょ、あんたは」
「お腹減った!」
「我慢しなさい」
「暇ぁ……」
「黙りなさい。またイカ刺しになりたいのですか?」

 鬼男がさらりと発言すると、閻魔は口をつぐみざるえなかった。意地でも動かさない気だ。ならばと大王は意を決し、肘掛けの部分にあるボタンを勢いよく押した。
 ドドドドド……と轟音が鳴り響いたと思えば、閻魔の座っているアームチェアが上昇し始めた。彼曰く、緊急脱出。今こそ その時だと判断してからの行動だ。

「ごめーん鬼男くーん。オレの辞書には『我慢』なんて言葉存在しないからさぁ。じゃっ、SA・RA・BA!《さらば》」

 「勝った」と閻魔は内心で拳を握って歓声を上げていた。 このまま華麗に姿を暗ます予定だった。だがそこは鬼男。対策済みであったようだ。
 何食わぬ顔で懐から取り出したのは、ボタン一つのリモコン。それを有頂天の上司に向ける。「ピッ」と鬼男はボタンを押した。
 途端にアームチェアに異常が発生した。空中でぴたりと止まり、そのまま急降下。閻魔もろとも地面に突っ込んだ。

「え? え? ちょっ、何があったの!?」

 困惑気味の様子で瓦礫(椅子)から這い出る閻魔。しかし、そこに秘書が立ちふさがった。

「あんたの行動なんて見飽きましたよ。褒めてやりたいぐらいに諦めが悪いのですね」

 むんずと首根っこをつかみ上げる。もはや身分の差なんて関係なし。

「前にも言ったような気がするが、もうほとほと愛想尽きましたよバカヤロウ! 小面憎いったらありゃしない!」
 
 冷たく、そして徐々に刺々しくなる鬼男。しかしさすがの閻魔も黙っちゃいない。

「鬼男君こそ、上司に対する態度をわきまえたらどう? 毎回思うけど、オレの心は人一倍デリケートなんだ!」

「こんなバカを上司と認めたくないですよ。尊敬されたきゃそれなりのことをしてください!」

 耳を塞ぎたくなるほどの罵声が飛び交う。まぁいつものことだから気にすることもないが。
 だが今度のは長く続くように思えた。鬼男のキレよう、珍しい閻魔の反論。引き下がってはいけないと両者共々感じていた。
 だが予想を害し、喧嘩はそう長く続かなかった。