二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ひぐらしのなく頃に〜感〜 ( No.2 )
日時: 2009/12/12 16:36
名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: fMybl0cm)

防殺し編 一話 見慣れぬ少女(圭一視点)

「ふぁあ〜・・・・・・」

午後の眩しい日差しの中、俺は大きな欠伸をした。
食後と言うのは非常に眠くなるものだ。
その上、午後の授業が非常に退屈だ言う二重苦難。
欠伸をしないほうがおかしいだろう。

「圭一く〜ん。大丈夫かな? かな?」

机に突っ伏している俺に声がかかった。
見上げると、セミロングボブの茶髪の少女−−竜宮 レナがいた。

「だ、大丈夫だ」

「ほ、本当?」

レナは非常に優しい性格で、女の子らしい。
こういう気配りにはグッとくるものがあるぜ。

「ああ。本当だ」

「よ、よかった〜」

レナは満面の笑みで微笑んでくれた。
その笑顔は天使、仏・・・どの素晴らしい表現にも値しない。
ただただ月のような穏やかな光で、俺を優しく照らす。

だが、俺の癒しの時間はあっけなく壊された。

「圭ちゃ〜ん? にやついてんの〜?」

「うげっ」

肩を思い切り叩かれた。
が、その力はあまりにも強く俺の顔面を机へと導いた。
額に鈍い衝撃が走る。

「み、魅音てめっ」

額をさすりながら振り向くと、そこには腰まである長い髪をポニーテールにした女、園崎 魅音がいた。

「けーちゃんが悪いんでしょ? ボーっとしてさ」

魅音の言葉で、俺は条件反射的に立ち上がる。
勢いよく立ちすぎたせいか、椅子が後ろでひっくり返った。

「何だと〜!?」

レナと違い、こいつはがさつだ。
女ではなく、男として生まれてくるべきはずの人間だったに違いない。

「魅音、レナ。俺はもう帰る!」

「「え!?」」

レナと魅音が揃って驚きの声を上げる。
自分で言っておいて何だが、今日はいつもよりも非常に腹立たしくなってくる。

「圭ちゃん部活は?」

「4人でやってろ」

部活と言うと、普通はバスケやら美術等の自分が好きな物を思い浮かべるだろう。
しかし俺の「部活」は一味もふた味も違う。

基本的には魅音が趣味で集めている「とらんぷ」とか言う物、海外物のカードゲームで遊んでいる。
ここまでなら「カードゲーム部」で通るかもしれない。

が、ここにはそのゲームの敗北者に「罰ゲーム」なるものをやらせる謎の決まりが存在する。
それが・・・うう。何というか非常にひどい。
罰ゲームは勝者の気分によって変わるが、代表的な物を一つあげておく。

・・・・・・コスプレ。アニメのキャラの格好をすると言う趣味レベルではなく、敗者にメイド服を着させるのだ。
地味にバリエーションも多く、敗者常連様の俺にとっては苦痛以外の何者でもない。
つか、男がメイド服を着て何がそんなに楽しいか?

「ってことで。じゃ」

俺は手早く下校の支度をすると、とっとと教室を出ていった。
背後で魅音がわぁわぁ何かを言っているが、そんなことは全く気にならない。
俺を怒らせた罰だ。

学校を飛び出た俺を、外の涼しい風が出迎えた。
この空気を吸うと、自分の住む場所が田舎だと実感させられる。

この町は「雛見沢」と言う。
辺り一面は緑の木が鮮やかに生える山に囲まれた、静かな村だ。
近代化する東京などと違い、古めかしい合掌造りの家が建ち並び、他にあるのは電柱と畑。
だが、その何もないところが雛見沢のいいところだ。

「さて・・・・・・これからどうすっかな」

断っておいて何だが、俺はやることが全くない。
普段は部活で時間を潰しているだけに、こういう時ほど暇なときはない。

「ん?」

さっきまで気づかなかったが、校門の前に、一人の女の子が立っていた。年は10歳くらいに見える。
赤みがかかった茶色の髪を、後ろですっきりとまとめ上げている、かわいらしい女の子だ。

「誰だ? あの子・・・・・・」

雛見沢は人口が少ない。
それゆえほとんどの人間は顔見知りだ。
さすがの俺も大抵の人間は覚えたつもりだが、あの女の子は見た覚えがなかった。

俺は好奇心から、その子に近づいてみる。
その子は誰かを待っているのか、じーっと木造校舎の学校をくいいるように見ている。

「よ」

「は、はい!」

俺が挨拶をすると、女の子は驚いて振り返った。
女の子の赤みがかかった茶色の瞳が、俺を見つめる。

「驚かせてごめんな。君、村の子か?」

「う〜ん。今はそうかしら」

曖昧な答えだ。旅行者なのか?

「俺、前原 圭一って言うんだ」

「あ、あなたが圭一お兄さん?」

どうやら女の子の方は、俺の名前を知っていたようだ。
やっぱり村の子みたいだな。

「俺の事知っているのか?」

「はい。あ、私は古手 那美。よろしくね」

古手と言う名字が、俺の耳に止まる。
部活仲間の「古手 梨花」が脳裏に浮かぶ。
ひょっとして梨花ちゃんの妹か? そう言えば、顔つきがどことなく似ている気が・・・・・・

「古手ってことは・・・・・・梨花ちゃんの妹か?」

すると那美ちゃんは、首を横に振った。

「いいえ。梨花は、私の従姉よ」

「今日は梨花ちゃんに、会いに来たのか?」

「ええ。京都から一人で来たの」

「き、京都!?」

京都と言えば、雛見沢からは結構遠いはず。
新幹線やら電車に乗り、さらにバスで30分はかかる。
俺よりも年下の那美ちゃんが、とても一人で来れるとはとても思えない。

「すごいな・・・・・・」

俺が素直に感嘆すると、那美ちゃんは不思議そうな顔をする。

「毎年のことよ?」

「ふーん・・・・・・じ」

そこまで言った俺は、言葉が出なくなった。
魅音とレナが、学校から出てきたのだ! あいつら部活やってるんじゃねえのかよ!?

「げ。魅音にレナっ!」

すぐさま回れ右をすると、俺は逃げるように学校を出る。
すると、その後を何故か那美ちゃんが追いかけてきた。

「な、那美ちゃん!」

「どこに行くの? 圭一お兄さん?」

子供らしい無邪気な笑顔。
何だか梨花ちゃんが目の前にいるようで怖い。

「どっかだ〜!」

今は二人から逃げることが最優先事項だ!
見つかったら何を言われるか、頭に多くの候補が浮かぶ。が、どれも恐ろしすぎる!

「圭一お兄さん、待ってよ!」

那美ちゃんは、華奢な見た目に似合わず足が速い。
俺が全速力で走る横を、涼しい顔をして走っている。

「まてるか〜!」

目の前に夕日が見え始めた。
山の木々を照らし出し、一面の影へ変えてしまう。
ああ、もうすぐ帰らないといけない時間か・・・・・・

「はぁ……はぁ……」

まだ心臓が激しく踊っている。
かなりのスピードで走った俺は、普段来ない雛見沢の外れへと来ていた。

辺りは一面の緑。ここは雛見沢をほんの少しだが見渡せる、小さな丘なのだ。
丘の向こうでは、夕日に染まる村の風景が見える。
オレンジに染まる田んぼ——そこでは穂の先に残る、先日の雨粒が光をうけてキラキラと輝いている。
そして合掌造りの家は、黒くなり、背後の鮮やかなオレンジとのコントラストがきれいだ。

もう見慣れた風景だが、いつ見ても美しい。
こんな風景、前は知らなかったからな。

「きれいね〜」

那美ちゃんが、感嘆の声を上げている。

「那美ちゃんも、この風景が好きなのか?」

「うん」

那美ちゃんは前を向き、丘の下に広がる風景に、いや雛見沢の彼方を見やるように景色を見つめ始める。
那美ちゃんの赤茶色の髪が、西よりの風に吹かれて右側になびく。

「あんまり見れないから、ね」

そう話す那美ちゃんの後姿は、どこか寂しそうに見えた。

「そっか……」

俺は言葉が思いつかなくて、無難な事を言ってしまう。ああ、ここで優しい言葉をかけられるナンパ好きな男だったらなぁ。

「ねぇ。圭一お兄さん?」

那美ちゃんが、前を向いたまま俺に声をかける。声のトーンがさっきより下がっていて、重大なことを話したい、と言う雰囲気だった。

「雛見沢はとてもいいところよ……それだけは覚えてて」

「んなの当たり前だろ」

那美ちゃんは何を言ってるんだ? 
それは当たり前すぎること、例えるなら1+1=2になるようなものだな。

俺の返事を聞いた那美ちゃんは、ようやくこっちを向いた。
そして花が咲くように笑った顔を見せてくれる。
だけど、どうしてか心の底から笑っているようには見えなくて。

「なら良かった。…そろそろ戻らないと、梨花に怒られちゃう」

「やべ! こんな時間かよ!」

時計は既に六時を回っている。
夏だからまだ日は長いが、そろそろ帰らないとお袋に怒られるッ!

「帰るぞ! 那美ちゃん!」

俺が急いで丘を下ると、那美ちゃんも後からついてきてくれる。

「急がないと怒られるのは、お兄さんも一緒ね」

「ナッ!」

子供だけど、さすが梨花ちゃんの従妹・・・古手の血をしっかりついでいるな、うん。

「う、うるさいぞ! 年上に向かって言うな!」

つい素で那美ちゃんを怒ってしまう。
だが、さすが古手の人間。那美ちゃんの返事は、クスクスとした笑い声だった。

「どっちが年上かしら〜?」

その言い方非常にムッとする! 

「んだとぉ〜〜〜〜〜〜!」

丘の雑草の中に、俺の怒りがこだまする。
陽光に染まる雑草は、怒りに燃える俺自身だ!

「まちやがれっ!」

「まちませ〜ん!」

那美ちゃんは身を翻すと、一気に丘を下っていく。
悔しいがさっき、俺が全力で走っていたのにあっさり追いついた。と言うことは、那美ちゃんのほうが足が速いと言うことを意味する。

むかつくが那美ちゃんは既に丘を下りきり、木々の間から彼女の白い手がちらほら見えている。
…俺の負け、らしい。

俺は追いかける気力もなくなり、丘の途中で寝転んだ。
俺を癒すかのように吹く涼しい風は、いつもよりも心地よく感じた。そして下に広がる草は、優しく体を包み込んでくれる。

「雛見沢はいいところ、か」

ふと那美ちゃんの言葉が気になった。
彼女は俺に何を言いたかったのか? 

上を見上げると夕日は山へ姿を隠すように沈み始め、俺の頭上には一番星が輝いていた。

「俺は雛見沢を嫌いになんか、ならなねえよ。つか、一番星の色が…」

一番星は赤に、黒を混ぜたような変な色で輝いていた。何だか不吉だな、と思い俺は空から目を背けてしまった。



晩のことだった。

「ねえ」
「はい?」

「今回は上手く行くの?」
「わからないのです」

「そ・・・」

この物のたちをまだ誰も知らない——