二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師 *あむの旅* ( No.49 )
日時: 2010/01/04 11:41
名前: 瑠美可 ◆rbfwpZl7v6 (ID: 2zWb1M7c)

 それからアルは、逃げるときからずっと持っていた『あるもの』をようやく地面に置いた。
 『あるもの』は黒い、コードのようなものだ。直径5cm程の黒い線でかなり細い。長さこそ、かなり細いものの、長さはかなりあり、屋上の出入り口から線はさらに下に続いている。アルに言わせると、これは一階下の部屋から持ってきたものらしい。
 普段、何に使っているのか全くナゾだ。

「あむ、ラン。下がっててくれるかな?」
「あ、ごめん」

 興味深くコードを覗き込んでいたあむとランは、アルに注意され、数歩後ろに下がる。
 二人が完全に下がったことを確認したアルは、腰にある小さなポーチに手をかけた。白く、何かの皮で出来ているのか中々頑丈そうである。
 ポーチのふたを開くと、真っ白なチョークが隙間がないくらいぎゅうぎゅうに押し込まれていた。長さは不揃いで、短いものもあれば、長いものもある。

「よし」

 アルはその中から使い込んでいるらしい、短めのチョークを取り出した。それで鐘とコードの周りに、スタンドで見た同じ図形を手早く描いていく。コツコツ、と言う黒板に文字を書くのと同じ音が響く。

「これって錬金術に使うの?」
「うん。『練成陣』と言って、力の循環と時間の循環を表す……なんて言ってもわかりずらいか。そうだね。錬金術に必要なものだよ。この陣にエネルギーを流して、初めて術が発動するんだ」

 アルは練成陣を描きながら言った。
 あむはわかったような、わからないような中途半端な感覚だ。大体のことは理解してきたつもりだが、『錬金術』は本当に難しい。

 やがて練成陣が完成し、いつもの光が飛び散る。するとそこには、鐘とコードが一体化したものが出来上がっていた。
 アルは、鐘の中が外を向くような形で持ち上げた。その体制のまま数歩歩く。コードが地面にすれる音がした。町がよく見渡せる場所に来ると、鐘の中を町に向けるような姿勢で止まった。
 なにやっているんだろう、とあむが思うと。
 ザーとテレビが映らないときに聞こえるような音が、鐘の中から流れ込んできた。下にいた町の人々が、次々と足を止めるのが見える。天から何か降ってきたような表情で、呆然と上を見つめている。

「……、しろ!」

 今度は、途切れ途切れに誰かの声がした。聞きとりにくいが、コーネロの声であることがわかる。心なしかかなり焦っている様だ。

「おっさん、いい加減にしろよ。お前の嘘は全部お見通しだ」

 続けてはっきりとエドの声が聞こえた。随分と余裕そうな言い方だ。コーネロとかなり違う様子。

「エ、エド? この鐘、もしかしてラジオになってる!?」

 アルが正解、とでも言うように軽く頷く。

「よく聞いていてね。コーネロさんが自白してくれるから」

 そこでようやくエルリック兄弟の考えが見えた。
 コーネロの悪事を、信者たちに暴露するつもりなのだ。しかし、コーネロとてバカな奴ではない。本当に成功するのか不安だ。

「賢者の石で何しようってんだ? それがあれば陳家の教団なんていらないだろ」
「くくく……国家錬金術師にはお見通しと言うわけだかね」

 黙って聞いていると、コーネロが追い詰められた悪者のように笑っているではないか。本当に、この二人の策に気づいてはいないらしい。

「そうだ! 教団は私のためなら、喜んで命を捨てる信者を生み出してくれる、死を恐れぬ最強の軍団だ! 見ているがいい」

 横にいたロゼの顔から、血の色が一気に引いていく。それは町の人々も同じだ。
 放心して鞄を落とす者、泣き崩れる者、怒りに顔を染める者……実にさまざまだ。が。

「あと数年のうちに私は、この国をテリトリーにかかるぞ。賢者の石と、錬金術と奇跡の術の見分けもつかないようなバカ信者どもを使ってな!」

 皆の心は同じ——コーネロへの怒り、悲しみ、憎しみ。それを増長させるかのように、彼は高らかに笑う。
 町の人々は、皆神殿の方へと走り始めた。きっとコーネロを問いただす気なのだろう。

「ふははははっ!」

 その時だった。エドがゲラゲラと笑い出す。嘲笑、と言う言葉がお似合いだ。

「なにがおかしい!」
「だからあんたは三流だっつーんだよ。これ、なーんだ?」

 いたずらっ子のような口調で、エドが言った。一瞬間が流れる。恐らくタネを明かしたのだろう……
 案の定コーネロが狂ったように叫ぶ声がした。

「奇跡の技なんてない——みんな賢者の石の力。はい。自白ご苦労様」
「な! 足元にマイクだと!? 貴様、そのスイッチはいつ入れた!?」
「最初から」
「このガ……うわぁああああ!」

 錬金術の音がしたかと思うと、コーネロが絶叫する。多分、エドが何かやらかしたに違いない。とあむは半分思っていた。

「リバウンドだろうが! 腕の一本や、二本でぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねえ! それより、石は……な、砕けた?」
「な、なにが起こってんの?」

 ラジオの向こうで何が行われているのか……あむには全く検討がつかない。

「どう言う事だ? 完全な物質であるはずの賢者の石が何故壊れる……」

 エドの声はありえない、と言った感じだ。
 どうやら『賢者の石』が砕けてしまったらしい。

「しっ知らん! 私は何も聞いていない。たたたたた助けてくれ! 私が悪かった!」

 完全に無力とかしたコーネロはもはや、ネズミ以下の存在だろう。猫に助けを求めるが、いつ狩られてもおかしくないはずだ。

「偽物かよ……ここまで来てやっと元に戻れると思ったのに。…・・・偽物」

 かなり期待を持っていたのに、裏切られたのだろう。エドはすっかり元気をなくしてしまったようだ。なんだかかわいそうになってくる。

「ざけんな!」

 しかし猫が元気を取り戻すのは、早かった。……そして牙をむくのも。
 パンと両手を合わせる音がし刹那、教会が小さく横に揺れ始める。

「に、兄さん?」

 アルはさすがにもういいと思ったのか、鐘を地面に置いた。しかし電源は入っているから、音は絶えず流れてくる。

「神の鉄槌くらっとけ!」

 ハンマーを振り下ろしたような音がし、教会のゆれはようやく収まった。

〜つづく〜