二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師 *あむの旅* ( No.70 )
- 日時: 2010/01/08 18:14
- 名前: 瑠美可 ◆rbfwpZl7v6 (ID: 2zWb1M7c)
- 参照: そろそろポケモン小説も書きたいなぁ^^;
「え? ここって『ルク』だよね?」
ルクの町に辿り着いたあむは、疑問符交じりの声を上げた。
町から人の声が聞こえないからである。リオールの時もそうだったが、町に近づくと人の声が聞こえてくるものだ。他愛もない雑談だったり、物を売る商人の声だったり。色々だが、その声を聞くと人がいるのだと安心できる。
が、それが全くないのだ。
低い風音が町のBGMのように聞こえてきて、かえって怖さを増長させる。
「え? あたしたち、道を間違えたの!?」
「そうじゃないと思う。ほら」
ミキが何かを指差した。
それは町の入り口にある門だ。木で出来ていて、アーチの形をしている。その上でキィキィと何か金属が擦れるような音がした。
「あ」
揺れている物体は、町の名が刻まれた標識のようなもの。長方形をした鉄のプレートの上には確かに『ルク』と刻まれている。
だがそのプレートはもはや取れかかっている。昔は四隅でとめていたらしく、4つの角の部分にはそれぞれ穴が開けられている。しかし止められているのは、右上のみ。残った留め金だけでプレートはぶら下がり、虚しい音を奏でていた。
「ここは確かに『ルク』なんだ……でも、なんか変じゃん?」
「中に入ってみよっか」
ランの言葉で、三人は町へと足を踏み入れた。
入り口から見たとおり、ルクの様子はおかしい。
左右に密集したレンガ造りの家々は、壊れているものが多い。家の扉が壊され、中がまる見え状態だ。
興味半分、恐ろしさ半分で3人は覗き込んでみる。
机や棚は倒れ、紙や割れた食器の欠片(かけら)が、床の中のあちこちにとび散っている。
しかも大抵の家には——赤黒い染みが壁にある。水系の物らしく、垂れた跡が残っている。そして……陽光が家の中を照らした。
「ひっ……」
あむは小さな悲鳴を上げ、息を呑んだ。
紙や食器の上に、人間の骨が散乱していた。頭蓋骨(ずがいこつ)や大腿骨(だいたいこつ)が、子供がおもちゃを散らかしたかのように、四方八方に散らばっている。ところどころ、布の切れ端がついている骨もあった。
赤黒い染み、散らばる人間の骨——どう考えてもルクは普通の村ではない。確実にここで何かあった。
「あむちゃん。行こう……」
「そうだよ。賢者の石を探そう」
あむを気遣っているのだろう。ランとミキが、優しげな口調で言った。
あむは何も言わず、骨に背を向け歩き出した。
「また骨だ……」
あむは沈んだ声を出した。
人間の適応力と言うものは恐ろしい。
ルクの町は進むたびに、また新しい骨が出てくる。
家の中だけではなく、道路にも骨は散乱していた。今は踏まないよう、注意して歩いている。
初めこそ骨にびくついていたあむだったが、もうすっかり慣れてしまい、骨を見ても平気で歩けるようになってしまった。
「あむちゃん……」
「この町、廃墟になってそんなにたってないと思う。早くて数ヶ月前か、長くても一年ってとこだね」
ミキが周りを見渡しながら話した。
この町で事件が起きたのは、割と最近の出来事らしい。
そのまま進み続けると、村の広場のような場所に出た。そこだけ家がなく、円形の広場になっているのだ。
そこには丸い石でせき止められた池があった。池、と言うにはおかしいかもしれない。その水の色が真っ赤だからだ。血を連想させる、どす黒い赤。見ているだけで気味が悪い。
しかもよく見ると、泉を囲むようにして謎の図形が描かれている。これは……これは……!
「練成陣?」
あむが言った。
リオールでアルが描いていたものによく似ている。無論、似ているだけで描いてある図形や、文字は全く異なるものだが。
「あむちゃ〜ん!」
ランの呼ぶ声に、あむは振り向く。
ランとミキは、いつのまにか別の場所に移動していた。池のすぐ後ろ——牢獄の中に。
牢獄と言っても、かなり簡素なものだ。
動物を入れる檻(おり)のように、四角く切り取られた岩の入れ物。その前方に鉄の棒が5、6本刺さっている程度のものだ。
その鉄の内二本は、途中なだらかな曲線を描いていた。誰かが無理やりねじ曲げたらしい。たいしたバカ力の持ち主だ。
「どうしたの? ってかちょ〜入りずらいんですけど……」
ランとミキは小さいから、鉄格子を簡単にすり抜けられるが、あむはそう簡単にはいかない。
ねじ曲げられた鉄が作り出す、わずかな空間に身体を横にして入る。大人一人がぎりぎり通れるスペースだった。
何とか入ると、あむは牢獄の中を見た。
せいぜい二人を収容するのが限界なスペースに、人が背を壁に預けたままとまっていた。もちろん骨。ただ町の人々違い、その骨はきれいだ。バラバラにはなっていない。縦縞の囚人服も砂で茶色に汚れてはいるが、きれいに形を保っている。理科室にある標本が、そのまま抜け出してきたようだ。
「かわいそう……ここで死ぬなんて」
あむは思わず両手を合わせ、ぺこりと頭を下げた。勝手に入ってごめんなさい……と声をかけた。
しかし骨は話さない。この人の魂は、ここにはないのだから。
「あ〜むちゃん! これ見て」
その時、ランが服を引っ張った。
顔を上げると、骨の側に赤い文字が書かれていた。恐らく血でかかれたもの。指を使って書いたらしく、かなり太い。あむは目で文字を追っていきながら、読み上げていく。
「生きていたら、『石』を渡したかったのに。今、この文字を読む生きる者よ。夕刻に……」
それで文字は終わっていた。
正確には、無いのだ。そこの壁だけ、何かで剥ぎ取られているのだ。白から茶色にそこだけ壁の色が変わっている。
「石!? この人、賢者の石を持っていたの!? ……そうなんですか?」
あむは骨に問いかける。
しかし答えは無い。「死人にくちなし」なのだから。
〜つづく〜