二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 涼宮ハルヒの嫉妬 ( No.17 )
日時: 2010/01/07 00:39
名前: song (ID: p17IpJNR)

「何て言うか……——」
 俺は言葉に詰まった。
「ん? 」
 ひよりはキョトンとして首をかしげている。
「言うなれば、俺が所属する部活の部長兼クラスメイト(後部座席)! 」
 棒読みだ。
 それ以上の言葉は口から出てこなかった。というか、言いたくないし言う必要もない。
「それがハルヒさん? 」
 ひよりは怪しくうつむき、言った。
「あぁ……まぁ」
「ははっ」
 ひよりは不意に笑った。
「何だよ?」
「いやー尻に敷かれてるなーって思って」
 俺にはおどけて言っているように聞こえたが、ひより本人の表情は少し寂しそうに見えた。
「俺とハルヒはそういう間柄じゃない! 」
 俺ははっきり言った。
「ほえ? そうなの?」
 今の電話一本でそう思えるものなのだろうか?
「でも、今日はクリスマス・イブだし……私てっきりそんな感じの電話なのかと」
「『そんな感じ』って一体どんな感じだ? 」
「デート」
 はっきり言うなー……この子は。
 すると、今ひよりの表情が堅くなるのが分かった。

「……気になる?」

 突然、ひよりは問い始めた。
「ん? 何のコトだ? 」
 俺は自分が座っていたベットに横になり聞いた。
「私のコト」
 一体何を言い出すのだ?
「……? 」
 ひよりが口を開き、ためらう数秒の沈黙と部屋いっぱいに広がる独特の威圧感が一瞬で場の空気を澄みきったモノへと変貌させた。そして——……
「実は私、夏休みに入る前に北高校を退学してるんだ」
 ひよりの重たいセリフは俺の耳には少しばかり鈍音だった。
「退学……!」
 俺は心底驚いた。
「うん。といっても家の諸事情で自分から辞めざるを得なくなって」
 ひよりはうつむき、目を合わせなくなった。
「……諸事情?」
 俺は一瞬しまったと思った。他人の諸事情など軽々しく聞いていいものではない。
「…………」
 ひよりも言葉に詰まっているようだ。
「……あぁ、言いたくないなら言わなくていいぞ?」
 俺はさりげなく自分の失言へのフォローをした。
「ううん、これを言わないと話進まないから……」
「そうか? 」
 ひよりは呼吸を整えて落ち着いた様子を見せながら少しずつ話始めた。
「私のウチは両親と妹がいて、今思うと毎日が笑って、怒って、泣いて、それでいて優しくて、温かくて、感情が募ってくる素敵な日々だったと思う。でも——」
 ひよりは歯を食いしばり、その眼にうっすらと涙が見えた。
「……5ヵ月程前、私の家族は何者かに惨殺されたのよッ !!! 」
 ひよりの叫ぶ感情が事細かに俺に伝わってきた。
「!!?」
 俺は黙ることしか出来なかった。いや、それ以上にこの重すぎる事情と俺の知るひよりとの少ない情報が色々と交差したからだろうか。
「犯人は知れぬまま、その後は親戚をたらい回しにされて、あまりにもそのテンポが早すぎて転校の手続きも出来たモノじゃないし……最近は何となく暇だったから気分転換に散歩してたの。それでも北高の制服を着てたのは学校への心残りだったのかしら? 」
 ことのてん末を俺は耳に焼付けた。だが、俺の口は開かず終いで、何か掛ける言葉を必死に考えていた。
「そういうわけで、もう暫くしたらこの町からもオサラバなわけ。せっかくキョンとも会えたのにね」
 そう言うと、ひよりは俺に少し引きつった笑顔を向けた。それは俺にとって何とも返しがたい笑顔だった。
 今のひよりにはどんな言葉を掛けても同情にしか聞こえないだろう。
「…………」
 見えないはずの空気が酷く色あせている。
「…………」
 お互い言葉が発せられない。次に何を言っていいのかが分からないのだ。すると——……

「コンコン」 

 ドアからノック音がした。
「母さん! 」
 ドアの開き口から顔を出したのは母さんだった。左手のお盆にはコーヒーが2つと軽い菓子が添えられていた。
「悪いね……盗み聞きする気はなかったんだけど」 
 どうやら、ひよりの事情は部屋の外で母さんにも伝わっていたようだ。全く……最近の母親というのはどこも同じなのだろうか。
「ひよりちゃん。もしよかったら、ウチに住まないかい? 」
 突然母さんはとんでもないことを言い出した。
「え……? 」
 ひよりも困惑しているようだ。
「おいおい、いいのかよ? そんなこと急に決めて」
 母さんの予測不明の言動にはほとほと呆れる。
「いいんだよ、人が困って立ち往生してるのを黙って見過ごすのはいい気分がしないじゃない? 」
 俺の饒舌のルーツは実はここにあったのかもしれない。
「……え、でも」
 当然、ひよりは困った。事故に巻き込まれそうになりつつ、大破した自転車に責任を感じて俺について来ただけなのに、そんな急展開になるだろうとは思ってもいなかっただろう。
「決めるのはひよりちゃんよ? でもあなたには一度気の休まるところで留まっておく必要があると思うの……」
 母さんはひよりの気持ちを透かすように言った。
「……気の休まるところ」
 そして、徐々にひよりの眼には輝きが蘇ってきた。
「そう。ウチならいくらでもいてくれて構わないからさ。そうだ、もう一度高校にも入ってみたらどうだい? 」
 話はさらに膨らむ。
「……高校」
 ひよりは一言ずつしか言葉を発しないが、引きつった笑顔がだんだん彼女の本当の笑顔へと変わって行く。
「……どう?」
 どうやら、母さんの後押しが効いたようだ。ひよりは立ち上がり深呼吸をして言った。
「いいんですか? 私なんかがここに居ても?」
「あぁ、いいともさ」
 優しい母さんの一言が終るか否かのその時——
 涙が……ぽつりとひよりの頬を伝ってこぼれ落ちた。ひよりにとってそれは久しぶりに浴びる『優しさ』だったのかもしれない。彼女の表情がそれを物語っている。
 こうしてウチに新しい縁が登場したのだ。