二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 涼宮ハルヒの嫉妬 ( No.18 )
日時: 2010/01/07 00:49
名前: song (ID: p17IpJNR)

 さて、あれから十数時間。俺は学校をさぼり、悠々自適に過ごしていられたのには理由が絶えないが、かくしてウチに新しい家族が出来たわけだ。あまりに突然のことで妹も本当に驚いていたが、そこは順応性の高い俺の家族だ。反対などあるはずもなく快くひよりのことを受け入れてくれた。それに妹は懐きだしたら利ない。

「しかし、何だってこんな健気な子をたらい回しにしたのかねぇ」
 母さんはひよりの目の前でぶっちゃけた話を始めた。
「気味が悪かったんだと思います。家族全員が殺されて私一人が生き残ったんですから……」
 苦を浮かべた顔が一瞬ひよりを包む。が、すぐにもとの表情に戻った。
「……一理あるかもしれないが、考えたって仕方ないだろ、そんなこと」
 俺は回りくねってフォローした。
「はは……」
 苦笑いだ。
「あれ、そう言えばあんた誰か迎えに来るって言ってなかった? 」
 不意に母さんは言った。
「あッ !!! しまった、すっかり忘れてた……」
 またしても忘れていた。いつもなら忘れることじゃないはずだが、ひよりの存在があやふやにしているのだろうか……
 いや、そんなことよりハルヒを家に入れるわけにはいかない。告白された次の日に女の子を連れ込んだなんて知れたらどんな地獄を見るかわからん。
「もうすぐ18時よ……? 今からどこか行くの? 」
 放任主義の母親だ。あまり心配している素振りはない。
「それはハルヒに聞いてくれ。まぁ十中八九出かけるだろうから晩飯はいいよ」
 俺もそれ相当に答えた。
「はいはい。あんまり遅くならないようにね……」
 母さんがそういい終わるか否かで俺は身支度を済ませ、部屋を出た。そして——

 ピンポーン

 怪しげにインターフォンが鳴る。
 ここは一歩引くべきか押すべきか……ひよりを気にする余り、俺はドアを開けながらも一層悩んだ。ほんの一瞬だけ……
 本当ならもっと悩んでからでもよかったのだが。

「こんばんは」

 そこにいたのは紛れもないハルヒだ。チェック柄のミニスカに分厚い白コートと紺色のマフラーを羽織っていた。しかし、今ひとつ声に張りが足りてい。それはなぜか、俺には分かりかねる。
 そこに俺は多大な違和感を覚えた。
「どうした……? らしくない」
 普段が普段だけに少し心配だ。
「え? あ、何か変かしら? 」
 変も何もお前は元から変だ。正しくは変じゃなくなった……か?
 俺は心の中でツッコミを入れたが、それを言葉にする勇気はない。爆弾の導火線で火遊びする気はないからな。
「いや、なんでもない。出かけの準備は出来てるから行こうぜ? 」
 俺はハルヒをせかした。
「慌てなくても時間はあるわ。のんびり行きましょう? 」
 そう言ってハルヒは徒歩を後ろへ進め俺の裾を引っ張った。
「お、おう……」
 神妙な気配で何となく分かったが、ハルヒなりに照れているのだろう。

 クリスマス・デート。はっきり言ってこれは日本だけの風習っていうか習慣だ。神仏習合の集大成とも言えるだろう。本来クリスマスは厳粛に教会で行われる年末の最大イベントだ。下手すりゃ正月よりも大切な行事だとか。古泉の言ったことを真に受けるのは癪だが、俺自身少し不思議に思っていたことだ。

『本番を前に盛り上がり過ぎないように……』

 考えたくないが「盛り上がり」とはデートを指し、本番とは俺の告白とでも言うのだろうか?
「ちょっとキョン!!! 聞いてるの !? さっきからずーっと黙ってるけど、どうかした? 」 
 考え事の最中、おぼろにハルヒの声が突き刺さった。
「あぁ、悪ィ……で、何だって? 」
「全く……これからちょっと寄りたい店があるから、付き合ってくれる? 」
 雰囲気とムードに合わせつつ、ハルヒは俺をあちこちに連れまわす気なのだろう。実にハルヒらしい一方的なデートだ。
「りょーかい」
 含み笑いを浮かべながら俺は答えた。
「ほら、ちゃんとエスコートしなさいよね! 」
 家の前では大人しかったが、少し開けた町並みが除いた瞬間、同時にその勢いが戻ったのだろう。俺はふとそんなことを思っていた。すると——……
「ん? 」
 俺の目の前には差し出されたハルヒの手が。
「早くしてよ……手が冷えるわ」
 口元をマフラーで隠しながらハルヒは言った。
 そして、俺は頭の端で俺自身、まだ何もハルヒにアプローチしていないことに気がついた。ハルヒはちゃんとアプローチしたのだが……
 何はどうあれ俺はハルヒの行動に無言で答え、その手を握った。
「さ、行きましょ」
 
 俺が思っていた以上にハルヒの手は冷たく、小く感じた。