二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-無駄な感情- ( No.109 )
日時: 2010/02/17 17:36
名前: 亮 (ID: 2nrfRM.C)


 73 天秤



「え・・・?」(リョーマ)

聞き取れなかった。
聞き取りたくなかった。

今、アイツは何を言った?

「何て・・・?」(リョーマ)

リョーマが呟く。
リョーマのほうを振り向いて、中務はニコリと笑った。

「聞こえなかった?」(中務)

その笑顔に、かつて幸村に五感を奪われた時の様に、体が硬直した。
冷や汗が、背中に垂れる。


「殺し合えよ、今すぐに。 そうじゃなきゃ、この娘、殺しちゃうよ? 俺」(中務)


首に当てているナイフを、更に近づける。

「あ・・・ッ やめ、」(リョーマ)
「やめて欲しい? なら、殺し合え」(中務)

たまに見せる、裏の顔。
その顔に、反論すらできない。

「・・・ッ」(リョーマ)

どうしろって言うんだ。
隣にいるのは、ジローさん。
この人を、殺せって言うのか。
ライバルでもあり、共にここまで来たこの人を。 この人達を。

「始めなよ、越前くん」(中務)

無理だ。

「武器、有るんだろ? バックの中に」(中務)

無理だ、無理だ、無理だ。

デイバックの中にはサバイバルナイフ。
あの時、死のうと思って出して以来、触れていない。
あの人が精一杯戦っていたから、幸村にだって、決して向けなかった。

だけど。

もう使わない、弱いヤツにはなりたくない。
あの人のように、強くなりたい。
そう思ったけど。

俺、どうしたらいいんスか? 部長。

俺はまた、他人に答えを求める。
返事は、無いのだけれど。

やらなきゃ、香澄が死ぬ。
やれば、ジローが死ぬ。
どちらかを、失う。


「良いよ、越前くん」(ジロー)


ジローが穏やかに言う。

「え・・・」(リョーマ)
「殺しなよ、俺を」(ジロー)

そのセリフを、待っていたよ。 芥川くん。

「俺は、皆を大好きなまま、終わりたい」(ジロー)


ジローの言葉を聞いた途端、中務がニヤリと笑う。
香澄は、背筋がゾクッとした。
同時に、ジローの言葉に、耳を疑った。

「ジローさんッ」(香澄)

大声で、ジローに呼びかける。
気がついたジローは、香澄の顔を見て笑った。

「大丈夫だよ」(ジロー)

キミが生きるのなら。

「ヤダ・・・」(香澄)

あなた達を、守りたいのに。
どうして、守られるばかりなんだろう。
生きて欲しいのに。

「お願い、やめて」(香澄)
「ごめんね」(ジロー)

どうして。

「どうして・・・ッ」(香澄)

ナイフが邪魔だ。
これさえ無ければ、走って止めに行くのに。

「ジローさん・・・」(リョーマ)
「良いよ、越前くん。 思い残すコトなんて、無いよ」(ジロー)
「・・・ッ」(リョーマ)

サバイバルナイフを、ジローの胸元に当てる。
手が、小刻みに震えていた。

「さァ、早く」(中務)

中務も、香澄に当てているナイフに力を入れる。

「殺さないなら、こっちが殺すよ?」(中務)

香澄先輩と、ジローさん。
リョーマは、命を天秤に掛けなくてはならない。


命の重さ。 そんなの、皆同じなのに。