二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.166 )
- 日時: 2010/03/02 20:24
- 名前: 亮 (ID: 2nrfRM.C)
79 最期の戦い
「すぐに小隊を派遣しましょう」
「このまま、あの子供達を逃がすわけにはいきません」
海が見えた。
これで、助かる!
香澄はそう思った。
「早く乗れ、香澄」(跡部)
「はい、皆も!」(香澄)
香澄の呼びかけに、皆が硬直した。
ここで、別れよう。
“首輪が取れたんなら、一緒に脱出しちゃえばいいのに”
そう思うかもしれない。
だけど、BRからの脱出者は後に政府にとらえられる。
教科書には、そう書いてあった。
昔の話しだ。
もう廃止されている、と思って適当に流していたけど、その知識がこんなところで役立つなんてな。
香澄が政府に狙われないためにも、俺たちはここで死ぬべきだ。
香澄にそう告げればきっと、意地でも一緒に逃げる、と言うだろう。
桃は跡部や他の皆の目を見た。
そして、香澄、と呼びかけようとした。
またも、遮られるのか。
「止まりなさい、子供達」
目の前には、自衛隊のような格好をした男達。
間違いなく、政府の奴らだ。
「戻りなさい、殺し合いを始めなさい」
冷たい目でそう言う、女。
後ろの男が、銃を構える。
「桃・・・!」(香澄)
早く逃げよう、そう言わんばかりに香澄は桃のジャージの袖を引っ張る。
振り返り、桃は精一杯の笑顔を見せた。
「殺し合いが出来ないのなら・・・・」
女は静かに、後ろに居る男の1人に合図した。
「ここで全員爆死して貰うわ」
男が出したのは、本物の爆弾。
怖い、怖い、怖い。
大人が、怖い。
首輪は無い。
逃げてしまえば、こちらの勝ち。
だから、速く逃げよう、桃。
なのに、桃は動こうとしない。
「桃・・・!」(香澄)
香澄がそう叫ぶと、桃は再び振り向いた。
自分のレギュラージャージを香澄に羽織らせ、抱きしめた。
そして耳元で、ささやいた。
「行くぞ、お前ら」(跡部)
その言葉と共に桃は、香澄の乗っているボートとこの島を繋ぐ縄をほどいた。
ボートは、沖へと流れ出す。
跡部が、持っていた銃で男の持っている爆弾を飛ばす。
「な・・・ッ」
「殺し合い、するんだろ?」(赤也)
「早く立てよ」(跡部)
香澄が、逃げられますように。
リョーマが振り向けば、もうボートの影を小さくなっていた。
あのボートが、見えなくなるまで、戦おう。
「さァ、行くよ」(リョーマ)
爆音が、島に響いた。
訣別の時を迎えた。
もうキミと、笑い合うコトは無いだろう。
もうキミと、悲しみ合うコトは無いだろう。
もうキミと、愛し合うコトは無いだろう。
サヨナラ、サヨナラ。
香澄は、呆然とボートに乗っていた。
島が小さくなる、だけど、しっかり見える。
今、大きな爆音がした。
今、皆の気持ちに気がつけた気がする。
これが、中務の言っていたことなのか。
だとしたら。
自分は、なんて愚かで、馬鹿で、恥ずかしい人間なのだろう。
『がんばれよ、香澄。大好きだったぜ』
桃、桃、桃、桃・・・ッ
「私だって、大好きなのに・・・」(香澄)
今更、遅すぎる。
全部、全部、失ってしまった。
“信じられる皆のためなら、自分の命を省みない”
いつだったけ、そんなことを言ったのは。
いつだったけ。
皆は、私を残すために戦っていた。
不安と恐怖で、自分を見失っていたワケじゃない。
皆は、自分の意志で、私を残そうとして、殺し合いを選んだ。
皆は、自分の命を捨てて、私のために・・・
手には、かすかに温かさが残る。
『テニス、しようぜ』
アナタがいなきゃ、世界が崩れる。
アナタがいない、何もない。
残ったのは、最低で愚かな自分。
久しぶりに、声を上げて泣いた。
———————————————————優勝者、青春学園、一ノ瀬 香澄