二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.192 )
日時: 2010/03/26 16:32
名前: 亮 (ID: nWdgpISF)

 
  【−Another Story1− 悲しい目をしたキミ】
       

       
       10年前、キミと出会った。

       悲しい悲しい、目をしていた。


 
 81 一本の電話から始まる




——————10年前、四天宝寺。


「毎日暑いなァ」(白石)
「ホンマ、イヤになりますわ」(財前)
「そやな」(白石)

全国大会を終え、夏休みも残すところ後3日。
大会が終わったが、引退を控えた3年生も練習に参加していた。

「まァでも、財前くんには四天宝寺の未来を担ってもわなアカンから」(白石)

白石は、財前の頭をくしゃっとなでる。
そして、笑った。

「頑張ってや」(白石)
「しゃーないッスわ」(財前)

先輩からのその言葉に、財前も若干頬を赤らめながら応える。
2人がベンチでそうしていると、コートから謙也が呼んだ。

「練習再開するで! 白石! 光!」(謙也)
「おォ、今行くわ」(白石)
「無駄に元気ッスわ、謙也さん」(財前)
「何やて?」(謙也)


ベスト4という結果に、満足と悔しさを感じて。
有望な後輩に、自分たちの思いを託して。
それを受け取る後輩は、果たせなかった夢へと進んでいく。

来年も、同じような顔ぶれと戦えることを信じて。

今日も、四天宝寺は平和だった。
この世界の何処かで、この世界の誰かが、崩壊していこうとは知らずに。
その“誰か”が、最も身近な人物であろうことも、知らずに
自分たちの“平和”すら、壊れていこうとも知らずに。


「ほな、早よ練習するで」(謙也)
「当然ッスわ」(財前)

コートに向かう2人に、白石は声を掛けた。

「悪い、先行っといてくれるか?」(白石)
「ん? どないしたんや」(謙也)
「ちょっとな。 タオル、変えてこようと思て」(白石)

謙也達と別れ、白石は部室に走る。
自分のロッカーを開け、タオルを取り出そうとしたその時、携帯の着信音がした。
自分の携帯かと思い、確認するが違い、謙也の携帯だと気づく。

「なんや、謙也のか」(白石)

独り言を呟き、急いで携帯を持ち出した。


テニスコートに向かって、白石は叫んだ。

「謙也ァ! 電話や!」(白石)
「電話?」(謙也)

その声に反応し、振り向く謙也。
白石のいる方へ歩く。

「オカンから、みたいやで」(白石)

白石は携帯を手渡しながら言った。

「ったく、なんやねん。 こないな時間に」(謙也)
「早よ出な、電話切れるで?」(白石)
「そやな、ありがとな」(謙也)

白石は、謙也と別れテニスコートに入る。
謙也は部室のほうへ歩いた。


誰も居ないところで、謙也が電話に出ようとすると、タイミング悪く電話が切れた。

「しゃーない、かけ直すか」(謙也)

母の携帯にかけ直すと、1コール目で出た。

「謙也?!」

表情を見なくとも、母が慌てているのが分かった。
大方、「牛乳か買うの忘れたー」とか、しょーもないことなんだろう。
そう思って、謙也はあきれたように答えた。

「なんやねん。 俺、練習中やっちゅーねん」(謙也)
「それどころじゃないねん、謙也」
「はァ?」(謙也)
「あの、な、落ち着いて聞いてよ」

ただごとじゃない、瞬時にそう悟った。

「オカンが落ち着きィや。 なんや?」(謙也)
「・・・侑士、くんがな」
「侑士が?」(謙也)






「亡くなったんやて」






誰が、どないしたて?

聞こえなかったんなら、聞き返せばいい。
なのに、声が出ない。

電話の向こうでは、オカンが泣いていた。


携帯が、謙也の手から落ちた。