二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.218 )
- 日時: 2010/03/05 18:08
- 名前: 亮 (ID: 2nrfRM.C)
82 知らない間に
白石は時計を見た。
謙也が、母との電話をしに行って、もう随分経つ。
「謙也、まだ戻ってないか?」(白石)
「そういえば、まだ戻ってなか」(千歳)
千歳の答えを聞き、しばらく考えた後白石は言った。
「ほな、俺、ちょっと見てくるわ」(白石)
「分かった」(千歳)
白石は謙也が向かった部室の方へと歩いた。
電話が長引いているだけかもしれない。
だけど、何となく気になるのだ。
部室の角を曲がると、謙也が立っていた。
何処にももたれず、何も持たず、ただ、立っているだけだった。
電話をしている様子もない。
不思議に思って、近くまで歩き、声を掛けた。
「謙也ァ、終わったんなら、早よしぃや」(白石)
隣まで来たところで、足下に携帯が落ちているのに気がつく。
「ケータイ、落としてるで? 傷ついてる見たいやけど・・・」(白石)
携帯を拾って土を払い、謙也に渡そうとする。
謙也は、それを受け取ろうともしない。
それどころか白石の呼びかけに答えようともしない。
“何かあったんだ”
白石の頭に、ようやくその考えが浮かぶ。
「謙也、どないしたんや?」(白石)
不安になる気持ちを落ち着けながら、いつもと変わらぬ口調で聞いたつもりだった。
だけど体を言うことを聞かず、言葉とは裏腹に、強い力で謙也の肩を掴み、自分の方へ引っ張った。
「おい、謙也!」(白石)
焦る気持ちが、抑えられない。
白石は強い口調で謙也の名を呼んだ。
謙也は、ゆっくりと白石と目線を合わせる。
「なんでも、ないで?」(謙也)
偽りでいっぱいの笑顔で、謙也は笑う。
それが耐えられない。
「嘘つくなや、謙也。 どないしたんや」(白石)
「なんでもないっちゅーねん。 ちょっと長引いただけや」(謙也)
「謙也・・・!」(白石)
こんなの、本当のお前じゃない。
そんな顔して、笑ったりしないじゃないか。
「ホンマに、なんでも、ないねんで? 白、い、し———」(謙也)
「謙也?!」(白石)
掴んでいた肩がぐらつき、謙也がその場に倒れ込む。
「謙也!」(白石)
もう1度呼びかけるが、すでに意識が無かった。
こういうときは、こういうときは・・・ッ
どないすればええんや?
いつもなら、すぐに出てくる対策法も、頭の中がグチャグチャで出てこない。
そうしているうちに、白石の声が聞こえたのか、財前が現れた。
「部長?」(財前)
こっちへ歩み寄りながら、意識のない謙也に気がつく。
「どないしたんですか? 謙也さんッ」(財前)
白石にだって分からない。
何が何だか、分からない。
「取りあえず、保健室や! オサムちゃんに伝えてくれ!」(白石)
白石は大声で、財前に指示した。
「熱中症、やね」
保健の先生は、落ち着いた口調で言う。
保健室には白石と財前、オサムがいた。
「ずっと暑いところにいたから、しょうがないわ。 少し休んだら、治る」
優しくほほえむ先生。
オサムが「すんません」、とペコッと頭を下げた。
「私、これから出張だから・・・ 後お願いしてもええ?」
「あ、はい」(白石)
白石が答えると、先生は出て行った。
それを見て、白石はため息をつく。
財前も、状況が飲み込めないでいた。
「白石さん、何があったんスか?」(財前)
「俺にも分からん」(白石)
白石が、ぶっきらぼうに答える。
財前が見た状況は、ただの熱中症で倒れた、とうい解釈で良いだろう。
でも、その解釈も、白石の様子を見れば確かでないことくらい分かる。
財前は、寝ている謙也を見た。
「白石さん・・・」(財前)
呼びかけに、白石は答えなかった。
かわりに、オサムが口を開く。
「謙也の目が覚めたら、家まで送ってやり。 部は、早退ちゅーことでええわ」(オサム)
「オサムちゃん」(白石)
「俺も、ちょっと用があるからなァ。 すまんけど。 ほな」(オサム)
オサムは、保健室を出て行きながら言った。
調べたいこと・・・があるからな。
オサムは、1人、廊下で呟いた。