二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ-無駄な感情- ( No.23 )
- 日時: 2010/01/30 17:28
- 名前: 亮 (ID: 2nrfRM.C)
56 どうせ死ぬなら
どうせ死ぬなら、せめて最期に大切な人と居たい。
これが一般的な意見だろう。
だとしたら、俺は紛れもなく例外だ。
「なーんかさ、実感湧かねェよな」(桃)
「え?」(香澄)
「こうして歩いてるとさ、何もかも夢だったんじゃねェかなって思う」(桃)
「けッ」(海堂)
「誰かと殺し合いをいている自分が信じらんねェよ」(桃)
直接手は下さない。
だけど、自分たちは確実に、誰かを犠牲にしてここにいる。
「同じコト、考えとったとこや」(侑士)
俺がここに存在するために、どれだけの仲間の希望を奪ってきたか。
忘れてはいけない。
忘れられるはずがない。
「考えても、しゃーないけどな」(侑士)
「そう、ですね」(香澄)
こんな思いをすることになるのは、分かっていたコトじゃないか。
戦うとなると、犠牲も必ず出る。
仲間がいればいるほど、別れを見る回数も増える。
「仲間って、なんなんやろな」(侑士)
侑士の言葉を最期に、誰も口を聞かなくなった。
ただひたすら、地図を見て進だけ。
今できることはそれしかない。
香澄は、気になっていた。
侑士だけは、何を考えているのか読めない。
ここにまで来て、心を閉ざしてしまうのだろうか。
分かり合えた仲間じゃないんだろうか。
私たちの存在は、侑士の中でどんなものなのだろうか。
どれほど進んだか分からない。
だが太陽は完全に昇り、昼になっていることを告げる。
「休憩にしますか?」(香澄)
香澄の一言で、皆は頷き適当な木陰を見つけた。
そして、軽くなったデイバックの中を見る。
「ハハ・・・ 食料、少なくなっちまったな」(桃)
「後1日半くらいッスからね」(リョーマ)
半日経てば、俺たちは自分の家に帰れる?
半日経てば、また平和な明日が待ってる?
そんな希望なんて、とっくに捨てた。
俺たちの望むことは、大人達に復讐すること。
そして・・・
それが叶えば、俺たちに明日なんていらないから。
生きていたいなんて、言わないから。
それが、キミの心を苦しめることになっても。
「どうしたの? 桃。 食べないの?」(香澄)
考え事に気が取られて、桃は手が止まっていた。
香澄の呼びかけに正気に戻り、動かし始める。
「え、あ、食べるぜ。 腹減ったからなー」(桃)
「何かあった?」(香澄)
「は?」(桃)
なんとなくだが、香澄は桃の様子がおかしいように感じた。
よそよそしくて、隠し事をされているような、そんな感覚。
「この状況でこの質問はおかしいか。 既にいろいろありすぎだもんね」(香澄)
「だな」(桃)
香澄は桃の隣に、ストンと座った。
そして、デイバックの中に残されていた食料を少しだけ出して食べた。
桃も自分も残り少ない食料を頬ばった。
そして、時折、その横顔を眺めた。
この目に焼き付けておこう。
大切なコの一つ一つの表情を。
「何?」(香澄)
視線を感じた香澄は、少しはにかみながら桃の顔をのぞき込む。
桃はあわてて視線をそらした。
「なんでもねェよ」(桃)
とは言いつつも、今度は自分に注がれる香澄の視線が耐えられなくて。
香澄も、いつもより素っ気なく、よそよそしい態度の桃に不安を感じていて。
それを悟り、桃はニカッと笑った。
「桃?」(香澄)
うん。 そうだな。
どうせ死ぬなら、コイツに・・・愛の言葉くらい言ってやろう。
俺に、それくらいの自由は有るよな?
「香澄」(桃)
「何?」(香澄)
桃は、少し深く呼吸した。
頭の中には、言いたい言葉が並んでいる。
どれから言えばいいか分からない。
「あ、えっと、あのさ・・・」(桃)
照れているばかりで、まともな言葉が出ない。
「す、・・・きじゃなくて、えっと」(桃)
「早く言ってよ、気になるじゃん」(香澄)
一つの言葉が、脳裏によぎる。
でもコレって、“愛の言葉”って言うのか?
「テニス、しようぜ」(桃)
「は?」(香澄)
香澄が、訳が分からない、と言うような顔をする。
俺にだって分からないけど。
分からないから、俺は調子よくそう言う。
期待なんて、させたくないのに。
「生きて帰ったら、最初にテニスをする! そうしようぜ、香澄。 約束だ」(桃)
俺がそう言うと、キミははにかみながら、“当たり前!”と言うんだ。
ゴメンな、ゴメンな。 香澄。
俺は無責任な人間だよ。
叶わない約束なんか、簡単に結んじまって。
謝罪の言葉と共に、別の言葉が浮かぶ。
“好きだよ”
この言葉こそ、伝えたい。
「香澄、俺・・・ッ」(桃)
言えるよな?
「不二先輩ッ!!」(リョーマ)
俺の必死の言葉は、この叫び声にかき消される。