二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.268 )
- 日時: 2010/03/07 10:27
- 名前: 亮 (ID: 2nrfRM.C)
84 知ってしまった
「ただいま」(白石)
謙也の顔を見て安心はしたものの、いつもよりややテンション低めで帰宅。
くつを脱いでいると、飼い猫が出迎えてくる。
「お前はええなァ、悩みとかなさそで」(白石)
ため息混じりにそう言う。
「何猫に話しかけとんの?」(姉)
「ねーちゃん」(白石)
「元気ないやん、なんかあった?」(姉)
何故か的確に、白石の気持ちを悟る姉。
そこで素直に“何があったか”を白石が話すはずもなく。
「なんでもないわ」(白石)
「ふーん」(姉)
姉は、納得はしていないようだが、それ以上根掘り葉掘り訊ない。
姉が諦めた様子を見て、白石は荷物を置こうと、自分の部屋に向かった。
『続いてのニュースです・・・』
リビングへ行くと、テレビが付いていた。
それほど興味も無いので、植物図鑑でも読みながら、聞き流す程度。
スポーツニュースなら、多少はマジメに見るのだが。
「最近は物騒ね」
なんて、後ろで母と姉が話していた。
『都内でテニス合宿をしていた、中学生テニス部員達を対象とした・・・』
“テニス”?
聞き流していたが、そのワードだけはハッキリ聞こえた。
“テニス部員を対象とした”?
スポーツニュース以外で、“中学生テニス部員”という言葉を聞くのは、珍しい。
白石はそれまで読んでいた植物図鑑を閉じる。
母と姉も、テレビに一番近く、白石の座っているソファの回りへ来た。
『BRが実施されました。
12年前に制定され、これまで一時的に使われなくなっていたのですが
この度、再び起用することを政府が発表しました』
“BR”?
白石は、教科書で読んだことのある言葉を思い出した。
“友達同士で一定の期間殺し合い、最後の1人を決めるゲーム”
そんな、最低のゲーム。
使われていなかった政策。
「なァ、オカン。 BRのこと、知ってるか?」(白石)
白石は、母の方を振り向かずに訊く。
母は若干ためらったが、口を開いた。
「・・・知ってる。 もう、随分前に廃止になったと思てたけど」(母)
「それで? テニス部員の子らと、なんの関係が有るの?」(姉)
姉は、焦りながら訊く。
「・・・そのテニス部員が、“BRの対象者”っちゅーことや」(白石)
白石は自分の発言に絶望を感じながら、ニュースの続きを聞いた。
『合宿をしていた学校は、
本年度全国大会出場校の“青春学園中等部”“氷帝学園中等部”“立海大附属中学校”の3校』
聞き覚えのある学校名。
そうだ、俺たちのライバルたちだ。
『優勝者は、唯一の女子、青春学園一ノ瀬香澄さん。
ボートを使い、島から逃れたようで、先程見つかりました』
白石の脳裏に、女の子が映る。
青学の皆を、後ろから応援して支えていた女の子。
『中継が繋がっています・・・ 現場の山田さん』
アナウンサーが、リポーターに呼びかける。
白石の頭の中で、色々なことが繋がった。
『はい、こちら○×海岸です。
行方不明となっていた、BR優勝者が発見されました』
ボートの上で、いつの間にか寝てしまったようだ。
此処が何処だか、全く分からない。
誰かが騒いでいる。
人がたくさんいる。 大人がたくさんいる。
『では、インタビューしてみようと思います』
そう言って、マイクを持った男の人や女の人が、自分を取り囲む。
『何人くらい殺したの?』
『どうやって島から逃れたの?』
『殺したときのキモチは?』
『今、どんな心境?』
繰り返される、同じような質問。
『答えて、一ノ瀬香澄さん』
マイクを向けられた。
香澄は、渡されたレギュラージャージを、ギュッと握る。
『それ、誰の? あなたのじゃ・・・ないよね?』
1人の女の人が、香澄とジャージに触れようとする。
その手を、香澄は払い除けた。
「コレに触らないで」(香澄)
皆、何処へ行ってしまったの?
この中に、私の味方なんて1人もいない。
信じられる人も、1人もいない。
自分が1人になってしまったことを、再認識する。
涙なら、ボートの上で枯れ果てたと思っていたのに。
再び、流れる。
後ろの方で、カメラマンが撮影する。
白石は、目を疑った。
ああ、あの子だ。
全国大会であった、あの女の子だ。
だけど、違う人のようだ。
だって、あんなに、悲しい目をしている。