二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.269 )
日時: 2010/03/09 14:13
名前: 亮 (ID: 2nrfRM.C)

 85 事実




やっと分かった。
全部、全部、やっと分かった。

謙也。

今、どんなキモチでいるんや?


「蔵! 何処行くの!」(母)

白石は、BRのニュースが終わった途端、玄関へ向かう。
母に呼び止められ、ドアを開けながら言った。

「謙也んちや!」(白石)
「あ、待ちなさい、蔵!」(母)

母の声なんか聞こえない。

今は、謙也が心配なんだ。
あの、偽りだらけの笑顔も、弱り切った表情も、少しの涙も。
全部、失った悲しみからだ。
従兄弟を失った、悲しみからだったんだ。

「迷惑掛けてしもたな」

そう言った謙也の顔が思い浮かぶ。
誰も、迷惑なんて思ってないから。
悲しみを、分けて欲しい。

だって、仲間なんだから。

全力で走って、やっと謙也の家が見えた。
インターホンを押そうとして、手が止まった。
会って、何を言おうというのだ。

励ます? 何て言って?

失う辛さなんか、想像も出来ない。

そんなふうにためらっていると、家の中から謙也が出てきた。

「・・・何してるんや? 白石」(謙也)
「え、あ、謙也・・・」(白石)

しばらく、沈黙が続いた。
我を忘れ走って此処まで来たが、何を言えばいいか分からない。
それに、我に返った途端、“心配で様子を見に来た”自分が、恥ずかしくなった。

「・・・ニュース見たんか?」(謙也)

謙也が沈黙を破る。
白石は、頷いた。

「大丈夫やから帰りや、白石」(謙也)
「でも、お前!」(白石)

そこまで言って、言葉がつまる。
やっぱり、謙也を前にして、何を言えばいいのか分からない。


「明日、俺だけ東京行くんや」(謙也)


謙也は寂しそうな表情を見せる。

「謙也、だけか?」(白石)
「うち、医者やからな。 休むわけにはいかんらしい」(謙也)

一呼吸置いてから、謙也はまた話し始めた。

「葬式、何人も合同でするらしいわ。 ヒドイ話やろ?」(謙也)
「・・・」(白石)

「会わなあかんかな。 ・・・優勝者に」(謙也)

“優勝者”
白石の頭に、“あの”女の子がよぎる。
悲しい目をして、リポーターを睨んだ、あの女の子。
そして、もしかすると。
もしかすると、誰かを殺したかもしれない、女の子。


謙也は、あの子を、恨まずにいられるのだろうか。


「ま、そやから、明日から部活には出られへん。 次会うのは新学期や」(謙也)
「そ、そうか」(白石)

ダメだ。
今、謙也を1人にしてはいけない。

「ほな。 来てくれてありがとな」(謙也)

1人で、あの子に会わせたらあかん。

何故だか分からない。
だけど、そんな気がしてならなかった。
謙也が、家の中に入っていく。
明日からは、新学期まで会えない。

「謙也!」(白石)

白石は、大声を出して呼び止める。
謙也は、驚いたように振り向いた。

「なんや?」(謙也)

何も考えていなかった。
今、崩れ落ちそうな自分を必死に支えている謙也の、支えになってやりたい。
考えていたのは、それだけ。



「俺も、東京へ行く」(白石)



必死だった。
この時を生きるのに、必死だったんだ。

俺のこの判断が、正しいかそうでないかなんて、分からないけれど。

お前の支えになる。
これが、俺に出来る最善のこと。


それを、ただただ、必死になってやっていたんだ。