二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.289 )
日時: 2010/03/14 15:25
名前: 亮 (ID: 2nrfRM.C)

 87 亀裂




新幹線に乗る。
新幹線は走る。

いろんな想いを乗せて。



次に目が覚めたら、ベッドの上にいた。
久しぶりの、暖かい空気と暖かい布団。
でもそれは、たくさんの希望と命と仲間と、引き替えで。

いっそのこと、何もかも分からなくなればいいのに。
「此処は何処?」「皆は何処?」と、泣きながら誰かを問いただす方が、よっぽど楽だ。
誰かが優しく、真実を告げてくれれば、自分を正当化できるのだろうか。
香澄には、痛いほど今の状況が分かった。
誰に訊くまでもない。

自分が此処でこうしている、と言うことは、皆は死んだ、と言うこと。

皆は何処にもいない。
いるのは、自分だけ。
痛いほど、簡単に、その真実を受け入れている自分がいる。
そのせいか、舟の上で枯れ果てたのか、涙はあれから一粒も出ない。

香澄は体を起こした。
回りを見渡すと、此処が病院の個室であることが分かった。
ベッドの隣には、桃のジャージが掛かっている。
ボートの上で発見されて、テレビで放映されて、そのまま疲労のためか寝てしまったらしい。


「香澄!!」


自分を呼ぶ声がした。
久しぶりに聞く、聞き慣れた声。  母だ。

「・・・」(香澄)
「香澄、目が覚めたのね。 大丈夫? 痛いところとか、無い?」(母)

母は、精一杯、娘を気遣う。
そして、香澄の手を強く握った。
悲劇の前の香澄なら、泣いて抱きついただろうか。

「今、お父さんが来るからね」(母)

母の声が聞こえる。
BRの間は、この声が恋しかった。
この手の、この温もりが恋しかった。
握られている自分の手を見つめ、母の顔を見つめる。
視線に気がついたのか、母のこちらを見て涙を流した。


「よく、帰ってきてくれたわ、香澄。 ありがとう」(母)


“アリガトウ”?

泣きながら、抱きしめられる。

ソノナミダトソノコトバ、ゼンブホンモノ?

病室に、ぞろぞろと大人が入ってくる。
校長先生、教頭先生、担任、父、桃の両親、知らないおじさん。 そして母。
皆、悲しい顔をしている。

ソノヒョウジョウノウラデ、ナニヲオモッテイルノ?

「お帰りなさい、一ノ瀬さん」(校長)

校長がそう言うと、教頭が頷く。
父は、香澄の隣へやって来た。
そして、母と同じように手を握る。

「頑張ったなァ、香澄」(父)

桃の両親が、泣いていた。

その間、香澄は眉1つ動かさなかった。

ナンデ、ナイテイルノ?

自分から、我が子を捨てた癖に。
皆、自分で捨てることを決めたはずなのに。
何故、泣く?
私は、泣くことも出来ないのに。


「知らないとでも、思ってるの?」(香澄)


香澄は、初めて口を開く。

「え?」(父)
「香澄?」(母)

とぼけた顔。
その顔が、大っ嫌い。
皆の希望を命を、奪った。
あなた達が大っ嫌い。



「皆、私たちを政府に売った癖に——————・・・ッ!!!」(香澄)



香澄の大声が、病室に響き渡る。
母達は言葉を失った。

その後、何を聞いても話しても、香澄は答えようとしなかった。


何度も何度も、想像した。
自分が家に帰って、家族と抱き合う光景を。

でも、そんなこと出来ない。





この人に、憎しみと怒りしか感じない。