二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.356 )
- 日時: 2010/04/05 10:50
- 名前: 亮 (ID: nWdgpISF)
91 偽ることを覚えて
香澄の小さな謝罪が、白石の耳にやけに大きく、響いて聞こえた。
そして、白石を追ってきた、裕太の耳にも。
香澄も謙也も、声を殺して泣いていた。
裕太もまた、顔を隠すようにして涙を流す。
白石は、立ち入れない空気に、1人困惑していた。
仲間を失う、従兄弟を失う、兄を失う。
そして、たくさんの憎しみを抱く。
どれも、今の白石には想像も出来ない感情で。
だから、下手に励ますことも出来ない。
「本当に、ごめんさない」(香澄)
香澄は、謙也の肩を抱くようにして泣く。
そんな香澄を前にして、謙也は、もう責めることも出来ない。
香澄がどんな想いをしていたかも考えずに、香澄がどんな人かも知りもせずに。
自分がしたこと、言ったことが、どれほどこの人を傷つけたか。
俺はなんて恥ずかしいヤツなんやろ。
お前、この子のコトが守りたかったんか?
なァ、侑士。
答えてくれ、侑士。
謙也はまた、侑士に問いかける。
それには、決して答えは返ってこないのだが。
謝り続ける香澄に、合わせる顔もなく、謙也はただただ首を振り続けた。
「お前のせいじゃない」と。
「謙也・・・」(白石)
白石も謙也の元へ来て、肩をポンッと叩いた。
謙也はようやく、言葉を発した。
「悪かった、一ノ瀬。 最低や、俺・・・」(謙也)
「そんなことない、実際、私がここにいるのは・・・ 皆のおかげで、皆が・・・」(香澄)
言葉がつまる。
ほら、皆がいたから此処にいる。
私、生きてるよ。 皆。
でもね、笑えないんだ。
苦しくて、悲しくて、辛くて、どうしようもなく不安だった、あの5日間。
だけど、私は笑えていたよね?
どんな状況でも、ココロは此処にあったよね?
————————————————————生きていた、よね?
香澄は涙を止められない。
謙也は、必死に止めようとする。
そんな2人の元へ、今度は裕太がやって来た。
「教えてくれないか?」(裕太)
穏やかな、優しい声で。
涙で濡れた、無理矢理作った笑顔で。
裕太は、香澄に問いかけた。
香澄はポカンと、裕太の顔を見上げる。
「教えて欲しい。 兄貴の最期を」(裕太)
「裕太・・・?」(香澄)
痛む胸を、ココロの奥底へ隠しながら。
本当は泣き叫びたい気持ちを、たくさんの他の感情に混ぜながら。
「知りたいんだ。 兄貴の気持ち。 それと・・・————————守りたかった仲間のことを」(裕太)
彼は、受け止めようとしていた。
兄の死を、現実を。
“弟”と呼ばれることが、あんなに苦痛でたまらなかったのに。
今は・・・ こんなにも、“弟”という響きが恋しいんだ。
もう1度、
「裕太」 そう呼んで欲しいんだ。
だけど、進もう。
道をたたれた、兄・周助の分まで。
「裕太・・・ッ」(香澄)
「一緒に、進もう」(裕太)
だから、今だけは—————————— ・・・一緒に泣こう。
「ありがとう」(香澄)
泣こう。 今だけは。
そして、明日からは、笑おう。
美味く笑えなくても、引きつっても、照れくさくても、ただ、笑おう。
私を立たせてくれた、皆のために。
皆はきっと、私の笑顔を望んでる。
私はもう、誰の手も借りずに、自分の足で生きていく。
そして、これから何があっても、私は幸せになってはいけない。