二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.383 )
日時: 2010/03/20 14:34
名前: 亮 (ID: nWdgpISF)

 93 キミは少しだけ力を抜いて。




正直、手が止まった。

“一ノ瀬香澄”

その文字を見て、手が止まった。
たぶん、向こうからかかってくるのを待っていた。
だけど、いざとなると何を言えばいいか分からなくて。
それでも、キミの楯になりたいと、支えになりたいと、強く願っていたから。

少しだけ、嬉しかったんだ。





「どないしたんや? 一ノ瀬さん」(白石)






声が震えた。
あまりにも、電話の向こうから聞こえる声が優しくて。

「あ、の・・・」(香澄)

特に、話そうと思っていたこともなくて。
気がついたら、通話ボタンを押してしまっていたから。
溢れるのは、言葉じゃなくて、涙なんだ。

「一ノ瀬さん?」(白石)

落ち着いた声で、もう一度香澄を呼ぶ。
それでも、何を言えば良いか分からない。
電話を掛けたのは、自分なのに。


「大丈夫か?」(白石)


香澄は、頷いた。
頷いたって、電話なんだから見えるわけがないのに。
言葉にならなくて頷いた。
白石には、伝わったようで。



「強がっちゃあかんで」(白石)



強がっていないと、自分を強く保てないでしょう?
自分が、崩れ落ちてしまうでしょう?
“強い”人になるために、“強がる”んでしょう?

「頑張んのは、ええけどな。 頼っても、ええんやで?」(白石)

寄りかかってしまえば、もう立ち上がれなくなる気がして。
それでも、少しだけ、肩を貸して欲しくて。



「ごめんなさい」(香澄)



それだけ、言うのがやっとで。
白石は、そんな香澄の様子を悟った。


「自分、謝ってばっかやな」(白石)


そう言って笑った。
下手に励ますことは出来ないけれど。
隣で笑っているくらい、出来るんじゃないか?


俺は、笑って待っているから、キミは少しだけ力を抜いて。


「待ってるから」(白石)


「え?」(香澄)

香澄は、咄嗟に聞き返す。



「笑えるようになるの、待ってるから」(白石)



ああ、少しずつで、いいんだね。
少しずつ、進むよ。
皆、きっと心配してるね。

「ありがとうございます」(香澄)

少しだけ、声が明るくなったのを感じた。
それは香澄も同じで。
笑ってくれる人がいる。 笑いかけてくれる人が居る。
でも、それは電話の向こうで。
学校ではなく、家ではなく、電話の向こうで。










ここでは、もう、笑えないかもしれない。










ここから、逃げてしまいたい。
何処か、笑いかけてくれる人の隣へ。









「“香澄ちゃん”、気が向いたらな、四天宝寺へおいで」(白石)









新しい、場所へ。
笑顔をさがしに、ちょっと旅へ出ます。