二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.413 )
日時: 2010/03/22 23:12
名前: 亮 (ID: nWdgpISF)

 95 嬉しさの涙




駅に着いた。
振り向くと、「阪急」と大きく書いてあり、その下に「梅田駅・三番街・17番街」とあった。
ここから、バスと徒歩ですぐのトコロに、“四天宝寺中学校”があるそうだ。
そのすぐ近くに、香澄の祖母の家がある。
つまり、香澄は四天宝寺に通うことになるのだ。

まずは、バスに乗ろう。

そう思って、バス停まで行くと、見覚えのある人影があった。


「香澄ちゃん」(白石)


「・・・白石さん!」(香澄)

バス停のベンチに座り、白石は香澄に向かって手を振った。
香澄は、白石の元へ駆け寄る。

「待ってて、くれたんですか?」(香澄)
「まァ、学校終わってからやけどな」(白石)

見ると、白石はまだ制服のままだった。
荷物も、隣に置いている。

「部活は・・・」(香澄)
「今日は、休ませてもろうた」(白石)
「そんなッ」(香澄)
「健二郎おるから、大丈夫やろ」(白石)

白石は笑ってそう言う。
それが、すごく申し訳なくて。

「済みません」(香澄)

これしか言葉は出なくて。

「ええんやて。 ほら、おばあさんち、行くんやろ? 何処なん?」(白石)

頭をポンとなでて、香澄の大荷物を持ち上げた。

「あ、四天宝寺中の、すぐ近くです」(香澄)
「そか。 それなら、明日から同じ中学校やな」(白石)
「白石さん、荷物・・・」(香澄)
「持ったるわ」(白石)

すみません、じゃなくて、ありがとう。

「ありがとうございます」(香澄)

白石はまた、笑った。


バスに乗って、少し歩く。
すると、四天宝寺中が見えてきた。

「ちょっと、中見て行くか?」(白石)

白石は香澄に言う。

「先生とかに、おうてたほうがええんとちゃう?」(白石)
「あ、書類、渡さなきゃ。 急だったけど、先生達も気を遣ってくれて」(香澄)

香澄は、少し切なそうに言う。
きっと、私はもう、青学にとって“いらないモノ”なんだろう。
大好きだった青学。
だけど、あそこはもう私を腫れ物扱いする。

白石はそんな香澄の心情を悟った。
しもた。
俺はまた、この子のココロのキズを剔るようなことを。

「香澄ちゃ・・・」(白石)
「行きます。 案内してもらえますか?」(香澄)
「え、あ、ああ・・・」(白石)

正門をくぐり、テニスコートを横切る。
そこには、テニス部の人達が練習をしていた。
香澄の目に、謙也の姿が映る。
何となく、顔を合わせずらい。
謙也は、香澄に気づかず、こちらへ走ってきた。

「おー、白石! 今日休むんやなかったんか?」(謙也)
「謙也」(白石)
「・・・一ノ瀬。 何でお前・・・」(謙也)

謙也は、香澄に気がつき話しかける。
香澄は、どんな顔をしていいか分からない。
重たい空気に耐えられず、白石が1人で話し始めた。

「あ、香澄ちゃん、おばあさんの家に住むことになってん。 明日から、ここの生徒なんや」(白石)
「明日から?」(謙也)
「・・・」(香澄)
「そういうワケやから、今日は書類とか手続きとかで此処に来たんや」(白石)

何を言えば良いんだろう。
あれから、謙也とは会話をしていない。
電話番号や、アドレスも、白石に教えただけで、謙也にとは交換していない。
あの日以来の、再会だ。




「ま、明日からよろしゅーな。 “香澄”」(謙也)




意外な謙也の発言に、香澄は思わず顔を上げた。
しそて、謙也は香澄に握手を求める。

「ほら、手。 俺だけ出して、恥ずいやん。 早よ」(謙也)

迎え入れよう。
キミを。
俺たちの、輪の中へ。

苦しみも悲しみも、全部、一緒だろ?

だから、キミは、今日から俺たちの仲間。
最初は、形だけだけど。
少しずつ、本物になろう。
だから、手を握らせて?



「はい・・・ッ」(香澄)



流れる涙は、久しぶりに流す、“綺麗な涙”。
憎しみじゃなく、悲しみでもなく、怒りでもなく、自己嫌悪でもない。


“嬉しさ”の涙。


迎え入れてくれた、“嬉しさ”。