二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ-無駄な感情- ( No.45 )
- 日時: 2010/02/02 19:03
- 名前: 亮 (ID: 2nrfRM.C)
58 会いたくない人
会いたくなかった。
誰にも。
この5日間、誰にも会わず、1人で死のうと思っていたのに。
雨が降り出した。
香澄達が去った後、侑士は岳人と直接対決をする。
「1つ聞いてええか?」(侑士)
侑士は、この状況に来ても冷静だった。
自分でも驚くほどに。
「なんで、生きたいんや?」(侑士)
侑士は、薄ら笑みを浮かべながら岳人に問う。
岳人は不思議そうな顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。
「死ぬのが、イヤだからだよ」(岳人)
そう答える岳人は、もう岳人じゃない。
「・・・そうか」(侑士)
「お前は、どうなんだよ」(岳人)
「は?」(侑士)
今度は、反対に岳人が侑士に問う。
「何で、生きようとしないんだよ?」(岳人)
何故生きようとしないか。
俺はどうして、一度も生きようと思わなかったのか。
本音を言えば、死ぬのは怖い。
死後の世界なんて想像出来ないし、天国や地獄なんてのもよく分からない。
でも生きるのだって、同じくらい怖いんだ。
生き延びた世界に、仲間は誰も居ない。
これだけはハッキリしているから。
だから、俺は生きることは望まない。
「誰もおらん世界なんか、楽しくないやろ?」(侑士)
そう言った侑士の顔は、長い前髪が目隠しをして、一瞬しか見えなかった。
岳人の目に、一瞬しか映らなかった。
正確には、一瞬しか映さなかったんだ。
涙を、流していたんだ。
そんな顔、見られない、見たくない。
これから俺は、コイツを殺して、残りも殺すんだ。
だから、同情なんて無駄なことしないぜ?
ほら、放送してる中務ってヤツも、言っていたじゃん。
助け合うなんて“無駄”だって。
グサッ
岳人の短刀が侑士の腹を刺し、侑士の隠し持っていたナイフが岳人の腹を貫通させた。
「ゆう、し」(岳人)
「岳人・・・」(侑士)
服は、血でくれないにどんどん染まっていく。
見上げた侑士は、泣いていた。
「かんにんな、岳人」(侑士)
そして、俺に謝る。
何でだよ、何で謝るんだよ、何で泣いてるんだよ。
分からない。
だけど、いつの間にか、俺だって泣いていたんだ。
「んで、泣くんだよ・・・」(岳人)
「知らんわ、アホ」(侑士)
ナイフが刺さったトコロが、ズキズキと痛む。
立ってられなくなって、2人はその場に並んで倒れ込んだ。
「・・・」(岳人)
雨が降っている。
体温が奪われる。
なのに、少しだけ侑士に触れている手が、妙に温かい。
「くそっ」(岳人)
生きたいって、確かにそう思ったのに。
「なァ・・・岳人」(侑士)
「なんだよ」(岳人)
「俺な、怖かったんや。 目の前で、誰かが、死ぬのを見るとか、殺すとか、生きるとか」(侑士)
初めて聞く、侑士の本音。
とぎれとぎれでは有るが、必死の侑士の言葉。
侑士の気持ちは、これっぽっちも分からないが、侑士には俺の気持ちなんてすぐに分かるのかもしれない。
「だから、誰にも・・・会わんうちに、1人で、死のうと思てたけど・・・」(侑士)
「それ・・・すらも、怖かった」(侑士)
涙が流れた。
雨が、それを隠してくれる。
だけど、コイツにはバレバレで。
「誰にも会いとおないって、思うてたけど、お前に会えて良かったって、今は思うてる」(侑士)
そういって、涙と雨で濡れた顔で、侑士ははにかむ。
「ホンマ、自分の気持ちがワケ分からんわ」(侑士)
その顔を見たときに、岳人は自分の気持ちを悟った。
ここへ来て、もう遅いのかもしれない。
だけど、岳人は正気を取り戻した。
失いたくない。
大事なコイツを失いたくない。
「ごめん、ごめん、侑士・・・」(岳人)
それだけ言うと、目が急にかすんで来た。
体温も、急激に奪われる。
侑士に触れている手も、冷たくなっていく。
「ありがとう」(岳人)
岳人は、岳人に戻り、ゆっくりと目を閉じた。