二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.479 )
日時: 2010/03/29 14:24
名前: 亮 (ID: nWdgpISF)

 99 囁き




「オサム、隼人を、よろしくね」(リサ)


リサが、マジメな顔でオサムに言った。

「は?」(オサム)

俺は、聞き返す。

「私、“織原”だから3人の中で、呼ばれるの1番早いでしょ?」(リサ)
「ああ・・・」(オサム)

さっきのことが、まるで夢だったかのように、あのおじさんは淡々と部員の名前を呼ぶ。
それは、名字を五十音順にしたモノで。
今までに呼ばれた何人かは、皆、涙を流しながら古びた教室を出て行った。
リサは自分の順番が近づいていることを悟った。


「〜番、織原リサ」


リサの名前が呼ばれた。
テニス部で、唯一の女。
リサは、マネージャーだ。

「はい」(リサ)

小さく返事をした。
そして、もう1度、オサムのほうを振り向く。

「お願い。 絶対、後で会おうね」(リサ)

リサは同時に、オサムと隼人2人の手を握った。
唯一の女、のはずなのに、リサは一粒も涙しなかった。
ただただ、祈るようにオサム達の手を握るだけ。
こんな状況なのに、それを嬉しく感じてしまう自分が、恥ずかしかった。


「それじゃ、何処かで」(リサ)


リサは立ち上がり、デイバックを受け取った。
おじさんはリサをじろじろ見て、「頑張れ」などと呟いた。
オサムははらわたが煮えくり返るほど腹が立ったが、リサは完全に無視した。

「隼人」(オサム)

オサムは、あれから一言も発していない隼人に、声を掛けた。
「立ち直れ」そんなことは言えない。
でも、こんなところで、いつまでもふさぎ込んでいるわけにもいかないだろう。
“こんなところ”というカンタンな言葉で、どうにかなる問題でもないけれど。


「リサ、どっかで会おうって」(オサム)


しばらくの、沈黙があった。
その間にも、1人、また1人、仲間は呼ばれ、消えていく。
隼人は、カオをあげなかった。

「・・・おぅ」(隼人)

一言、それだけ答えた。
オサムには、隼人に何を言えばいいのか、よく分からない。
「お前のせいじゃないよ」とか?
それでは、無理があるように思えた。


「〜番、中務隼人」


隼人の名が呼ばれた。
ゆっくり立ち上がり、おじさんの元へ歩く。
隼人を見て、楽しくてたまらない、というような笑みを、おじさんは見せた。

「待てよ、隼人」(オサム)
「?」(隼人)

オサムは隼人の袖を引っ張った。
これだけは。



「リサ。 アイツは、俺たちで守る」(オサム)



隼人は頷いた。
お互いに、気がついていたんだ。
この胸の奥にある、感情。

「早く、行けよ」(オサム)

背中を押す。
繋がっているから、俺たちはまた巡り会える。
隼人は、振り向かずに進んだ。


「行ってらっしゃい」


おじさんが、隼人の肩を、ポンッと叩く。
隼人は、恐怖からか怒りからか、走り去った。
それからしばらくして、オサムが呼ばれた。
もう、残りの人数も少なく、“サヨナラ”も“何処かで会おう”も言わなかった。
オサムも、皆と同じように、デイバックを受け取る。





「何処まで、あの女の子を信じられるかな?」





背筋が、凍ったように硬くなる。

「何を・・・」(オサム)
「愛は、儚い物だよ」

オサムは無視した。
聞いてはいけない、見てはいけない。
感情を、あの男にコントロールされてしまう。
オサムは、走った。

見えなくなればいい、聞こえなくなればいい。
それくらい、遠くへ行ってしまえばいい。





悪魔のささやき。





人間の形をした、悪魔。
人のココロを踏みにじる。