二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.488 )
日時: 2010/03/31 17:21
名前: 亮 (ID: nWdgpISF)

 100 同調(シンクロ)




俺とリサと、隼人。
同じテニス部で、いつも一緒にいた。

初めて会ったのは、テニス部の入部届け出したとき。
何かと突っかかってくる隼人は、正直ウザかった。
勉強でも、テニスでも。 

「お前、いつかゼッテー倒す!」

何回、あのセリフ言われたっけ。
そんな俺たちの勝負を、いつも隣から見ていたのが、リサだ。
ニコニコ笑って、試合を見てる。
俺と隼人の試合は、ほんの少しの時間で終わるけど、なかなか隼人が諦めないモンだから、
何時間もプレイしてるのに。
気づけばいつも、隣で笑ってる。

「がんばれ」

大会の時も、そう、一言。
他には何も言わない。
試合中は、一言も声援はあげない。
だけど。

「負けんな。 負けたら、全部終わっちゃうよ?」

ココロが折れそうな時は、いつもこのセリフ。

「いいの?」

強い眼差しで。
俺らを問いただす。
良いわけねェよ、そういうと、いつものように笑うんだ。

「ほら。 じゃァ、がんばれ」

ココロの奥が、きゅうっと締め付けられる。
きっと、隼人も同じだ。
いつの間にか、リサのことが。
きっと、隼人も同じだ。

「行くぞ、オサム」

もう、俺ら3人は、“同調”してた。


知らなかった、何も。
リサのコト、隼人のコト。
引き寄せられるように、いつも1つのトコロへ集まるんだ。

テニスに引き寄せられたように、きっと。







———————————————————————————————————————ここでも。







「リサ、隼人」(オサム)

オサムは、草をかき分けて顔を出した。
すると、リサも顔が見えた。
これは、キセキか?

「オサム!」(リサ)
「お、会えたな」(隼人)

思った以上に、2人は穏やかで。

「歩き回るより、待とうってね。 オサム、来てくれる気がしたから」(リサ)
「俺ら、“同調”してるしな」(オサム)
「だな」(隼人)
「何の約束もしてないのに、すごいよね」(リサ)

今、自分たちがどんな状況にいるのか、忘れたわけではない。
だけど、オサム達は穏やかだった。
崩れてしまう世界で、3人は笑っていた。

それを遮るように、遠くで爆音がした。


「!」


3人は、一斉に振り返り、辺りを見渡す。

「・・・近くじゃ、ねェみてェだな」(隼人)
「そうだね」(リサ)
「もう、乗ったヤツがいるってことかよ」(隼人)
「だろーな」(オサム)

唇をかみ締め、悔しそうな顔をする隼人。

「逃げて隠れてりゃ、何とかなるって、甘い考えだったな」(オサム)

オサムは一言、そう言う。
運が良ければ、逃げれるんじゃないかって。
そんなふうに考えてた。
1人で行動している時も、“どう逃げようか”ばかり考えていた。

自分は、卑怯な人間だ、と今自覚した。

ついさっきまでの、明るい空気は何処へ行ったのか。
作れていたはずの、3人の世界さえ、崩れ落ちる。
維持できない。

「どうするかな、これから」(オサム)

オサムが、口を開く。
自分がどうしたいのか。
それがまとまらなければ、行動できない。
行動しても、中途半端で、いつ殺されるか分からない。


「とりあえず、バックの中、確認してみない?」(リサ)


それは、驚くほど冷静に。
的確な意見を。
あの、揺るぎない瞳で。

「おォ、了解」(隼人)

隼人はそう言って、自分のデイバックを開ける。
オサムも、開いた。

「まずは、武器、だよね」(リサ)




なんとなく、リサは悟っていたんだと思う。




“死”とういものを。




“同調”は、肝心なときには、働かなくて。
リサというココロに、俺と隼人は触ることが出来なかった。
リサ自身の、不安も、恐怖も、悲しみも苦しみも、葛藤も。
何も伝わってこなかったんだ。




「私、殺虫剤」(リサ)




これでなら、彼らの助けに、なるだろうか。




「マジかよ、俺は・・・ナイフと、なんだ? コレ」(隼人)
「え?」(リサ)
「レーダー・・・か?」(オサム)




キミを守るのに、ナイフならちょうどいい。




「オサムは?」




「俺は、パチンコ」




これでは、キミを守れない。
なら、この身を使って、“楯”になろう。




オサムは、笑って見せた。
当然、笑い事なんかでは、すまされないコトなのだが。
リサも、笑っていた。



















ああ、この時からだ。
キミと俺らの間の、“同調”が働かなくなったのは。