二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-無駄な感情- ( No.58 )
日時: 2010/02/04 21:21
名前: 亮 (ID: 2nrfRM.C)

 59 雨の午後




降り出した雨は、次第に強くなっていく。
地図を広げて小屋を探したが、この近くには無い。

「不二先輩ッ 今、止血をしますから!」(香澄)

腹部を刺された不二は、大量に出血している。
遠く離れた小屋にいく余裕は無い。
仕方なく、香澄達は少しだけでも雨の防げる木の下に不二をおろした。

「大丈夫ですよ! もう少しですからッ」(香澄)
「そうッスよ、不二先輩!」(桃)

大丈夫なんかじゃない、刺さり方は思ったより酷く、血も止まらない。
何度も拭き取って、デイバックの中の包帯を巻いても止まる気配が無い。

「か、すみ、もも、かいどう、えちぜ、ん・・・」(不二)

不二は、閉じていた目を少し開け、香澄達の名前を呼ぶ。
消えそうなくらい、小さな弱々しい声で。

「不二先輩?」(リョーマ)

手が動いている、唇がかすかに動いている。
不二は、何かを伝えようとしている。

「何ですか?先輩・・・?」(香澄)

香澄は、不二の手をそっと握った。
まだ、温かい。
不二は少しだけ笑顔を見せた。

「不二先輩?」(香澄)

「・・・テニ、ス、続け、てね。 み、んな・・・」(不二)

「不二、先輩・・・?」(香澄)

不二は、精一杯の笑顔で香澄達を見た。

続けてね。
何があっても、テニスだけは捨てないで。
だって・・・ 僕と君たちを繋ぐ、唯一のモノだから。
僕はもう、ムリみたいだけれど。
君たちだけは、絶対に、絶対に、止めないで。

「続けますよ! 先輩も! “決着付けよう”って言ったじゃないッスか!」(リョーマ)

リョーマはいつになく取り乱し、不二の側へ駆け寄る。
その後に桃と海堂が続く。

「絶対に、止めたりなんか出来ませんよ!」(桃)
「不二先輩・・・」(香澄)

不二は、もう1度笑顔を作る。
安らかに、穏やかに、いつもと変わらずに笑う。
それが余計に苦しくて、香澄達は不二の顔がまともに見られない。

「先輩・・・」(海堂)

海堂も、不二の名前を呼んだ。
皆で、何度も不二に呼びかけた。
けれど、握っている手の力が、どんどん抜けていくのが分かる。

「不二、先輩・・・!」(香澄)

最期に、香澄の声が届いたのか、一度だけ頷いた。
それが、最期だった。

「先輩ッ」(香澄)
「不二先輩!」(桃)

届かない。
何度呼んでも、もう届かない。
手にも、力なんて無い。

香澄は、もう1度強く手を握る。
冷たい。
もう、さっきまでの温もりは無い。
冷たいんだ。

それが、雨のせいだと、思いたかった。



「放送でーす。 死亡者、氷帝学園、向日岳人、忍足侑士、青春学園、不二周助。
 禁止エリア、A-21、E-9・・・」(中務)

以前とは正反対に、淡々と話す中務。
それは、妙に不気味で、怖かった。



「バカだよね〜 向日くん。 
 同情なんかせずに、さっさと殺しちゃえば、生き残れたかもしれないのにさ。


 これで分かったろ?  助け合うとか、同情とか、無駄なんだよ」(中務)


残り少なくなった、この島。
中務の声が、大きく響いた。