二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.607 )
日時: 2010/04/14 16:48
名前: 亮 (ID: nWdgpISF)

 107 キミは俺の手をすり抜けて




思えば、キミに付いた嘘は、これが初めてだった。
俺たちはいつも、正面から向き合っていたのに。

「リサ。 早くボートに」(隼人)

隼人はもう、リサの瞳をまともに見ることが出来なかった。
何もかも、見透かされている気がして。
瞳を見てしまったら、もうごまかせない気がして。
自分も一緒にボートへ乗って逃げてしまいたい、という気持ちがあふれ出しそうで。


本当は、キミと離れたくない。


「隼人。 手震えてる」(リサ)


リサがふいに、隼人の手に自分の手を重ねた。
「大丈夫?」そう言うように、隼人を見上げた。

「なんでもねェよ。 早く乗れ」(隼人)

リサのココロは、踏ん切りが付かない。
乗ってしまえば、きっと助かるのだろう。
だけど。
彼らは、自分たちを犠牲にして、ここから大人を遠ざけるつもりだ。
自分だって、そうしたい。
彼らを守りたい。

「リサ」(オサム)

オサムは、そんなリサの心情を悟った。
もう、リサを誤魔化せない。




「乗って、逃げてくれ。 リサ」(オサム)




頭を下げた。
これが、最期のお願いだから。
キミを綺麗なまま、この世界から遠ざけたい。

「後のコトは、俺らに任せて」(オサム)

ニコッと笑う。

「絶対、俺らも逃げるから」(オサム)

根拠のない、“絶対”。
こんなにも、“絶対”と言う言葉が重たい。
隼人は、唇をかみ締めた。

「早く。 リサ」(オサム)

リサは、それを素直に聞き入れるほど、素直ではない。
そして、白状でもなかった。
薄情な方が、都合が良かったのかもしれない。










気がつけばキミは、俺たちの手をすり抜けて。









「リ、サ」(隼人)

隼人の顔が、青ざめる。


“逃げるのは、アナタたち。 引き寄せるから、その間に”


「リサァァァァァァァァァ!!!」(隼人)

叫び声が、響く。
それと同時に、銃声が。

「何、でだよ」(オサム)

それだけいうのが、精一杯で。
森の中で起こったことを、飲み込めない。
隼人は、飛び出そうとする。
森の向こうの、大人達の声が次第に大きくなった。
こちらへ、来る。




“守ってくれて、ありがとう。 だけどね、最期くらい、私に”




リサの言葉が、リサの温もりが、リサの瞳が。
ついさっきまで、此処にあったのに。
確かに、存在したのに。



俺たちはいつの間にか、立場が入れ替わっていた。



守っているつもりだった。
リサを、守り通せる自信があった。
だけど。
それを望まなかったのは、彼女自身だ。

隼人は、ボートのある死角から飛び出す。
それを、オサムは片手で止めた。

「やめろ」(オサム)
「何だよ、オサム! お前、状況分かってんのか!」(隼人)

目には、一杯の涙をためて。


「撃たれたのが誰か、何で撃たれたのか、分かってんのかよ!!」


分かるさ。
分かる。
だから。




「この島を、離れよう」




隼人は、抵抗を止めた。

リサ。
お前は、幸せだったか?






脳裏に浮かぶ彼女は、いつも笑顔で。
この手からすり抜けたその瞬間も、笑顔で。
その両手一杯に、幸せを掴んだかのように。

























“ありがとう”とほほえんだんだ。