二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.616 )
日時: 2010/04/15 19:43
名前: 亮 (ID: nWdgpISF)

 108 誰かの幸せ




俺たちは、舟を出した。
血に染まった彼女を、抱き上げることのないまま。
それが、彼女の願いだから。

「行くぞ」(オサム)

隼人は、頷かない。
放心状態のまま、ただ海を見つめた。

“リサの願いだから”

そうやって、オサムは自分を正当化させる。
そんなの、言い訳でしかないことくらい、とうの昔に分かってる。
でも、それでも。
彼女が幸せに死んだと、願いを叶えるために死んだと、自分の意志で死を選んだと。
思いたい。


「隼人」(オサム)


オサムは、隼人に話しかけた。
隼人は、海を見たまま答えない。
だけど、顔を見なくても分かる。
肩が、震えている。
オサムはこの期に及んでも、涙が出なかった。
それが不思議でさえあった。
自分でも分からない。
悲しいのに、なぜかココロは泣いていない。

リサへ俺たちは依存していたと思う。

クラスで、リサがだれかと話すとき。
部活で、自分以外の誰かにタオルを手渡すとき。
それが女だろうが男だろうが、ココロの中は嫉妬で一杯で。
中でも我慢ならないのは、リサがお互いのどちらかと話しているとき。
だから俺たちは、どちらかが抜け駆けしないように、いつも一緒にいた。

それが、自然になっていた。

リサのいない日は、ヒマだった。
何をしてもうまくいかない。
もう、彼女抜きの自分なんて、考えられなかった。
ココロのそこに、彼女がいる。
振り向けばそこにいてくれる。
だから、なんでも頑張れた。


その気持ちは、隼人のほうが強かったのかもしれない。


「隼人」(オサム)

オサムはもう1度、彼の名を呼ぶ。
隼人は、自分の目を強引にこすった。



「泣けよ」(隼人)



隼人は、オサムを厳しい目で見る。

「は?」(オサム)

オサムは、意味がよく分からなかった。





「悲しいなら、泣けよ」(隼人)





隼人は、オサムを睨んだ。
オサムが、泣いていないのを、“悲しまない薄情者”ととったのだろうか。

「隼人・・・」(オサム)

オサムは、泣けない。

「泣けよ! 何で泣かないんだよ!?」(隼人)

隼人は、泣く。

「落ち着けよ」(オサム)

胸ぐらを掴んでくる隼人を、オサムはなだめるように言った。
隼人は、正気を失っている。


「悲しくないのかよ?! 寂しくねェのかよ?!」(隼人)


それは、おもちゃを取り上げられた子供のように。



「リサがいなくても、平気なのか?!」(隼人)



平気なわけ、ないじゃないか。
だけど何故だか、寂しくないんだ。





「リサは、お前のなんだったんだよ?!」(隼人)





その目に、ヒカリはない。


舟は進む。
何処へ行き着くか分からない。
東京か?
それとも、何処かの知らない土地か?
分かっていることはただ1つ。




その場所に、彼女はいない。





やがて、雲は流れ、日が傾く。
かすかに、陸が見えてきた。
海が浅くなり、オサムたちは舟を下り海を歩いて浜辺に上がる。
オサムも隼人も、一言も話さないまま。

これから、どうするつもりなのだろうか。

オサムは、隼人のコトが気がかりで進むに進めない。
気がつけば、2人とも座り込んで海を見ていた。

先に口を開いたのは、隼人だった。


















「俺は、もうリサ以外の誰の幸せも願わない。 他人の幸せなんか、潰してやるよ」