二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.628 )
- 日時: 2010/04/16 22:08
- 名前: 亮 (ID: nWdgpISF)
109 お前はお前らしく、俺は俺らしく
隼人の言葉は、強くオサムの胸に響く。
リサは、もういないというのに。
彼は“リサだけ”の幸せを願い続けるというのだ。
そして、“他人”の幸せを潰していくというのだ。
彼は、本当に狂ってしまったのか。
「隼人、何言ってんだ。 お前」(オサム)
オサムは、正面を向き、隼人の目を見る。
隼人も、オサムを見た。
「そんなの、おかしい」(オサム)
正気を取り戻せ。
今のお前なら、出来るはずだ。
「おかしくない。 リサの幸せを願うことの、何がおかしい」(隼人)
目は、どこか遠くを見つめるようで。
オサムは思いが届かないコトをなんとなく悟った。
隼人は現実を受け入れられていない。
リサがいなくなった事実を、受け止められないでいる。
「隼人。 リサはもういない」(オサム)
いないんだ。
いつも隣で笑ってくれた、リサはもう、いないんだ。
人魚姫は、自分の命よりも王子の命を選んだ。
彼女も同じように、自分の命よりも俺たちの命を。
俺はとうてい、王子には成り得ないが。
隼人は一瞬、澄んだ瞳でオサムを見た。
何かに気がついたように。
オサムは隼人の両肩を掴んだ。
「分かったか?」(オサム)
受け入れた、という隼人の正気を求めて。
願うようにオサムはそういう。
それとは裏腹に、隼人はうつむき、呟いた。
「・・・リサは、死んだ」(隼人)
理解した。
「隼人」(オサム)
だけど、何処か様子が変で。
オサムは隼人の名を呼んだ。
「リサは、死んだのに、なのにどうして、他の奴らは生きている?」(隼人)
もはや手遅れで。
隼人のココロを満たすのは、はかりしれない怒りと憎しみと、疑問。
正しい解答なんて、オサムには分からない。
隼人自身も、誰に聞いても分からないことくらい、知っているはずだ。
「・・・そんなの、分かんねェよ」(オサム)
オサムの癖だ。
壁にぶつかると、自分の髪をクシャッとなでる。
越えることの出来ない大きな壁が、隼人との間に出来てしまった。
もう、分かり合えるコトなんて、ない。
「俺は、許さない。 この世界の全てを」(隼人)
その“全て”の中には、自分も含まれているのだろうか。
「復讐する」(隼人)
リサが、泣いている気がした。
何よりもきっと、俺たちが共に生きていくことを願ったはずだ。
ごめんな、リサ。
俺たち、もう無理だ。
「もう、会うことはないな」(オサム)
隼人は、その言葉を聞きうなずく。
「二度と会わない。 約束しよう」(隼人)
それまで、厳しい顔つきだったのがウソの様に、涙が流れる隼人。
本当に、コイツは読めないヤツだ。
オサムはそう思う。
「ああ」(オサム)
リサが一緒にいられない今、俺たちだけのうのうと助け合って生きていくのは卑怯な気さえした。
「1つ、訊いていいか?」(オサム)
「何」(隼人)
「これから、家に戻るのか?」(オサム)
隼人は、しばらく考えた後言った。
「戻らない。 政府に俺たちを売った敵のトコロに、戻るつもりはない」(隼人)
オサムも、それは同じ。
これから、1人で生きていく覚悟は会った。
「これは、俺からの約束」(オサム)
オサムは、隼人にポケットにあったテニスボールを手渡す。
「何だよ?」(隼人)
俺たちを繋げ、俺たちを引き離した唯一のモノ。
それが、テニス。
「テニスだけは、絶対に忘れない。 一生、関わっていく」(オサム)
それだけ。
「それだけ、約束しろ」(オサム)
やっとだ。 リサ。
やっと、涙が出たよ。
「じゃーな」(オサム)
オサムのほうから、隼人の手を離す。
これから、一生、追うことのないだろう大切なパートナー。
サヨナラ