二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.676 )
- 日時: 2010/04/30 20:10
- 名前: 亮 (ID: cX1qhkgn)
113 声に出さない願い
財前の手は、思ったよりも温かくて。
香澄はすごく安心した。
「え、財前君が?」(白石)
放課後、香澄はテニス部の練習を眺め、白石の帰りを待っていた。
それは、白石の指示で。
今の香澄にテニスを見せることは、胸の傷を剔るのと同じだとは思った。
でも、どうしても、少しだけ話す時間が欲しかった。
「そうなんです。 なんだか、気を遣ってくれたみたいで」(香澄)
香澄は、あの日泣き崩れ、冷たい目をしていた人間と同一人物とは思えない。
ハキハキと話し、相手の目を真っ直ぐ見る。
白石が今日の様子を聞くと、財前の珍しい行動を教えてくれた。
「めずらしぃこともあるもんやなァ。 あの財前君が」(白石)
「そんなに、ですか?」(香澄)
「まァ、あんなヤツやし。 あんまり人のコトに首突っ込むキャラやないやろ」(白石)
「そうかもですね」(香澄)
それだけ、キミが頑張ってるのが伝わったんだろう。
キミが辛いのが、苦しいのが、寂しいのが、切ないのが。
伝わったんだろう。
白石は喉まで出かかった言葉を飲み込み、
「ああ見えても、ええヤツやから」
笑って言った。
「安心したんです。 もっと、コワイ人かなって思ってたんで」(香澄)
香澄も、照れたように微笑む。
それは、白石が全国大会で見た表情と、何ら変わりはなくて。
その微笑みが、ココロの底からのモノなのか上辺だけのモノなのか。
以前と、変化がなさずぎて、逆に疑ってしまう。
白石の疑問の答えは。
白石にはもちろん、香澄自身にも。
分からなくなっていた。
「じゃァ、此処で」(香澄)
振り向きながら、香澄は言う。
角を曲がればすぐに、香澄の住む祖母の家だ。
「ほな。 また明日」(白石)
もう少しだけ、一緒にいたい気もしたが、白石は平然と手を振る。
香澄も、言いたいことがあった。
お礼と、これからのこと。
「あ、の。 白石さん」(香澄)
帰ろうとする白石を引き留める。
白石はすばやく振り向いた。
「ん?」(白石)
彼女は、また、笑う。
「色々と、お世話になりました」(香澄)
「俺、何もしてないで?」(白石)
白石は、高鳴る胸を、抑える。
香澄は首を勢いよく振った。
「白石さんがいなかったらきっと、」(香澄)
そこで、1度言葉を切った。
いつかの、赤也のようだ。
白石に真っ直ぐ見つめられ、頭に出ていたセリフが飛んでしまった。
すごいね、赤也。 それと、桃も。
あんなに、スラッと言っちゃうんだから。
「と、とにかく!」(香澄)
言いたいのは、この言葉。
「ありがとうございました。 これからも、宜しくです!」(香澄)
彼女は、笑う。
それがホンモノでも、たとえ、ニセモノでも。
受け止めるよ。
白石は、微笑み、香澄の頭をクシャッと撫でた。
力になるから。
寄り添って良いんだよ。
声には出さない、白石の願い。
でも、彼女は気が付かない。
「ほなな。 “香澄”」(白石)
「さよなら」(香澄)
いつか、願いが叶えばいい。
気づかないうちに、自分は1人の女の子を愛していた。