二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.689 )
日時: 2010/05/02 19:04
名前: 亮 (ID: cX1qhkgn)

 115 きっと、アイツらも




何や、何なんや。
そんなん、おかしいやろ。


「そんなん、スキ以外のなんでもあらへんわ。 アホ」


謙也には、あっさりそう言われてしまった。
でも、やっぱり、突然すぎる。
まだ、初めて会ってから一週間と少ししかたってないで?
彼女の、ほんの一部しか知らなんのやで?
絶対、おかしいやろ?

白石は授業中も訳の分からない、自問自答を繰り返す。
謙也は、白石のほうを見て、「アホやな、アイツ」と言わんばかりに笑った。
それに、白石が気がつくはずもなく。
1人の世界で、授業中なのに百面相しながら悩んでいた。


それでも、ココロは正直で。
少しずつ。 自覚を始める。



彼女の、1つ1つの仕草が。 言葉が。 表情が。



自分のココロに刻み込まれている。
目を瞑れば、思い出せるんだ。
これは、このキモチは。
紛れもなく。





恋。





それは。 彼の初恋の始まり。
でも。  越えられないライバルのいる、初恋だった。



「謙也さん、金ちゃん見てないですか?」(財前)

放課後。
財前が、階段にいた謙也を呼び止める。
突然いなくなった、金太郎を捜している最中だ。

「見てへんで。 逃げられたんか?」(謙也)

謙也は笑いながらそう言う。
そんな彼に、財前は少しだけ安心していた。
夏休みの終わりは、もう二度と、謙也の笑うトコなんか見られないと思っていたから。

「そうッス。 もう、目ェ離したらすぐおらんなるスわ」(財前)

呆れたように、言う。

「なんなら、光も白石みたいに“毒手”したらどや?」(謙也)
「んな、暑そうなもん、ゴメンッスわ」(財前)

「そやな」と謙也は笑う。
そして、

「頑張れや。 ぶちょーさん」(謙也)

その言葉に、財前も珍しく微笑んだ。
謙也はそれに、目を丸くする。

「ほな。 探してきますわ」(財前)

謙也が財前をからかう前に、財前は振り向かずに階段を下りていった。



「あ〜、腹減ったわァ」(金太郎)

財前の心配をよそに、金太郎はテニスコートにいた。
財前と別れたのは、校舎内だというのに、短時間で遠くへ移動していた。

「あんか、落ちてへんかな。 食べたら、白石に怒られそやけど」(金太郎)

独り言を呟きながら、足下を見る。
学校なので、何も落ちていないのは当然のことなのだが。
ふと、顔を上げると、そこには見覚えのある顔が。

「誰やったけ。 え〜っとぉ・・・転校生の、あ! 香澄!」(金太郎)

思い出せたことが嬉しくて、つい大声で香澄の名を叫ぶ金太郎。
それに驚いて、香澄はビクッと振り向いた。


「香澄ィ!!」(金太郎)


金太郎は、ニコニコしながら香澄のほうへ一直線に走る。

「あ、えと、遠山君?」(香澄)

香澄は戸惑いながらも、突っ込んで来る金太郎を止める。

「どうかしたの?」(香澄)
「特にどうってことはないねんけど」(金太郎)
「そう」(香澄)

笑顔を絶やさない金太郎を前に、香澄も笑う。
この人も、自分に“安心”を与えてくれる。
人の笑顔は、とても安心できるんだ。
だから、それに応えよう。
そして、彼女は笑う。


「・・・?」(金太郎)


どうやら、彼女は笑うことが苦手なようだ。
鋭い財前や白石はともかく、鈍感すぎる金太郎にまで、それが伝わった。

「・・・香澄?」(金太郎)
「ん?」(香澄)

彼女は、悟られないように必死だ。
香澄自身、それに気がついていない。

「大丈夫なんか?」(金太郎)

不安そうな顔で、泣きそうな顔で、金太郎が問う。
彼にも、香澄の事情が理解出来ているようだ。
私はまた、人を不安にさせている。



「大丈夫。 ね?」(香澄)



私のことで、悲しい顔しないで。

「そう、か」(金太郎)

彼女は、悟られることを嫌う。
だから、自分は。



「腹減った! 何か持ってへん??」(金太郎)



自分は。
いつもどうり、笑っていればいい。

「へ? えっと・・・」(香澄)

金太郎の問いかけに、香澄は無意識にポケットを探る。
そこには、何故かアメが。

「こんなんじゃ、お腹ふくれないかもだけど」(香澄)

そう言いながら、金太郎の前に出す。
金太郎は目を輝かせる。

「もらってええんか??」(金太郎)
「うん」(香澄)


そのアメは、妙に、甘くて。


いつだったか、立海の丸井さんに、教えて貰って買ったアメ。

「おいしいでしょ?」(香澄)
「ん? おぉ! うまいで!」(金太郎)
「それは、ね」(香澄)

香澄は、間を少しだけおいて、呟く。







「食べるとね、自惚れでもなんでもない、自分の中にある本当の強さが芽生えるんだよ」(香澄)







“それって、丸井さんが考えたコト、ですよね?”
“香澄、先輩の言うこと間にうけんなよー”
“んー、まァそうかもしんねェけど”



“そー思ってれば、いつか、ホントに強くなれるかも、だろぃ。 俺は天才だからいらねェけど!”



そうですね。 丸井さん。


「ね?」(香澄)

香澄も、自分の口へそれを運んだ。
その笑顔は、とても幸せそうなのに、何処か悲しげで、寂しげで。



でも、とてもキレイだった。



目を、奪われてしまう。
思わず、見入ってしまう。

「あ、そう、なんや」(金太郎)

金太郎は、そう頷く。
香澄は「バイバイ」と手を振って、帰路についた。



「あー! おった、金ちゃん!」(財前)

財前が、いつになく大声を出して走ってくる。

「今日は、練習やなくて、ミーティングやってゆーたやろ!」(財前)
「あ、そーやったけ?」(金太郎)
「ったく ・・・って、どないしたん? 金ちゃん?」(財前)

いつもよりおとなしい金太郎の様子に気がつき、訊いてみた。
金太郎は、香澄が立ち去ったほうを見ながら。

「・・・コシマエも、手塚おっちゃんも、バンダナの兄ちゃんも、桃色兄ちゃんも」(金太郎)
「ん?」(財前)













「こんな、キモチ、やったんやろか。 皆」(金ちゃん)















“こんなキモチ”
財前にも、何となくだが、理解できた。

「・・・そやな」(財前)


たぶん、うちの部長も。


きっと、皆。
彼女が。


愛おしかったのだろう。