二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-無駄な感情- ( No.69 )
日時: 2010/02/05 18:25
名前: 亮 (ID: 2nrfRM.C)

 60 死んでから




リョーマは泣いた。
桃も目尻を光らせた。
海堂は俯いた。
皆はそれを見守った。

香澄は、泣かなかった。

ただただ、不二の綺麗な顔を見つめるだけ。

「不二先輩・・・」(香澄)

状況が、理解できていないワケじゃない。
不二の死を、受け入れられないワケじゃない。
だけど、香澄は泣かず、ただ見つめた。
そして、冷たくなった手を握る。

「香澄・・・」(跡部)

そんな香澄を心配し、皆は回りに集まった。
だって、泣きもしないなんて、逆に不安になる。
心はまだ、香澄の中にあるか?

「大丈夫か?」(跡部)
「はい・・・」(香澄)

跡部の問いかけに答えるも、不二を見つめたままの香澄。

これ以上、犠牲なんて出したくないのに。
一体、私たちは何人の明日を奪ってここにいるのだろう。
胸の残るのは罪悪感。
自分が何故生きているのか、という疑問。

死にたくなかったハズなのに。
後悔がないハズないのに。
皆で、生きていたかったハズなのに。
同じように生きることを望んでいたのに、何故この人が死ななくてはならなかったのか。

死んでしまったのに、何故この人は、こんなにも穏やかな笑顔なのか。

分からないよ。
不二先輩。
あなたは、何で笑っているの?

ようやく、香澄の目にも涙が浮かんだ。

「・・・何で、ですかね? 跡部さん」(香澄)
「何がだ?」(跡部)
「どうして・・・先輩は笑っているんですかね?」(香澄)

こぼれ出す涙を必死にこらえ、香澄は跡部に問う。

「後悔とか、無いんですかね?」(香澄)

香澄の問いに、跡部は答えられなかった。
答えなんて、見つからなかった。
それは香澄も同じで、そこに存在する皆も同じだ。
生き続けている人間には、理解なんて出来ないだろう。

「分かりませんよね」(香澄)

香澄は無理矢理はにかみ、再び不二を見る。

「さよなら・・・不二先輩・・・」(香澄)

もう、二度とこの人に会うコトはない。


「進むぞ」(跡部)


進もう。
俺たちは、仲間の明日を奪って生きているのだから。
明日も明後日も、普通に続くと思っていた奴らから、明日を奪って生きている。

誇りに思うコトなんてムリかもしれない。
だけど、忘れてはならない。

心を、刃向かう感情を、忘れてはならない。



私たちは“異変”に気づいていなかった。
中務達の行動の“異変”に。

直前まで、気づけなかった。