二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.712 )
日時: 2010/05/06 17:44
名前: 亮 (ID: cX1qhkgn)

 117 オクビョウモノ同士




しばらく時が経ち、冬になった。
12月。
香澄が四天宝寺に来て、もうすぐ4ヶ月。
2学期も、後少しだ。

「ほれ、香澄。 コーヒー」(財前)

財前は香澄と一緒にいる。
それは、自然なことで。

「ありがと」(香澄)

クラスに馴染めなかったわけではない。
誰かにBRのことを言われたわけではない。
だけど、財前はいつでも香澄と一緒にいる。
初めのうちは皆、戸惑っていた。
他人に無関心だったクラスメイトが、いきなりやってきた転校生から離れない。
妙な、光景だったと思う。
だけど、最近では、当たり前のことになっている。

「あ、雪」(財前)
「初雪、だね」(香澄)
「今日の練習は、廊下でダッシュやな・・・」(財前)

財前が、面倒くさそうに言う。
香澄は微笑んだ。

「金ちゃんが、逃げ出しそうやね」(香澄)

このころからだろうか。
香澄が、少しづつ関西弁になっていた。

「また、面倒なことになるんや」(財前)
「がんばれ、部長」(香澄)
「ほな、戻るか」(財前)

戻ろうとしたとき、丁度、2人を呼ぶ声が。


「香澄ー、光ー!」


謙也と、白石。
財前は、いっそう面倒な顔をする。

「なんスか、謙也さん」(財前)
「見かけたから声かけただけやないか」(謙也)
「迷惑な」(財前)
「先輩に向かって何ぬかしとんねん、お前」(謙也)

2人が、他愛もないやりとりをする。
この光景は、見慣れている。
日常茶飯事だ。

「俺も、コーヒー買おかな」(白石)
「寒いですもんね」(香澄)

香澄は最近、よく笑うようになった。
白石はその横顔を見る度、胸が高鳴る。
それなのに、未だに香澄へのキモチを肯定出来ずにいた。

「楽しそやな。 最近」(白石)
「え? ・・・あぁ、皆、優しいですから」(香澄)

香澄の脳裏に、あの日がちらつく。
謙也とぶつかり合った、あの日のことも。

「いつまでも、下向いていられません」(香澄)

ツヨガリ。

「そか」(白石)


オクビョウモノ。


苦難を乗り越える香澄は、強く見えた。
隣で、自分のキモチすら肯定できない自分が、弱く思えた。
言い訳だけれど。
怖いのだ。
香澄を、愛するのが。



「繋がった・・・?」

オサムは1人、喜びと嬉しさと驚きと怒りと、言いようのない感情の交じった声を上げた。
電話が、繋がったのだ。
彼に。

『はい』

12年ぶり。
忘れられるはずのないその声は、少し低くなっていて。

「久しぶりやなぁ」(オサム)
『ッ!』

電話の向こうの彼は、オサムの声としゃべり方に驚きを隠せない。
それ以上に、電話の向こうに、オサムがいることに信じられないくらい驚いていた。

「分かるか?」(オサム)

オサムが、静かに問いかける。

『オサ、ム・・・?』

何年経っても、分かるものだ。
彼は静かに、応える。

「俺、今、大阪におんねん」(オサム)
「しゃべり方、聞けば分かるよ」
「せやな」(オサム)

オサムは、ハハッと笑った。
電話の向こうの彼は、白々しい彼に、おそるおそる問う。


『何で、電話なんかしてきたんだよ?』


電話なので、表情は見えない。
オサムは、微笑んだ。





「隼人。 俺はお前に会いたい」(オサム)





会いたい。
生きているお前に。
今のお前に。
それをきっと、リサも望んでいる。
お前にだって、分かるだろ?

『俺に会う資格なんて、』

資格なんか、関係ないだろ。

「関係ない。 会いたいんだ」(オサム)

お前は、お前なんだから。
資格のない、最低なお前に、会いたい。

『でも、』
「でもじゃない」(オサム)
『・・・ッ』

隼人は、黙ってしまった。
しばらく、沈黙が続く。
オサムは、少し挑発しようと考えた。
あのときのままの、アイツなら。


「なんも変わってないなぁ、あん時から。 “オクビョウモノ”」(オサム)


そう。 “オクビョウモノ”。
中学の時から、オサムは隼人を罵る時に、いつもこの台詞を言っていた。
隼人は、沈黙を破る。

『るせー・・・』


誰にだって、迷いはある。
それを乗り越えて、進むことが強いんじゃないか?


オサムは、窓の外の香澄たちを見る。

そう、あのコのように。
前へ進まなければ。

「隼人。 決めろ」(オサム)
『・・・』
「隼人。 リサも、望んでいるはずや」(オサム)

一か八か。 リサの名を出す。


「リサは、俺たちが離れていることを悲しんでるはずや」


電話の向こうから、本をめくる音が聞こえた。
それから、しばらくして。
















『明後日の、昼の2時。 大阪駅に行く』

それは、決断の一言。
オクビョウモノが、外へ飛び出す。
それを、彼女たちはまだ知らない。
もう1人のオクビョウモノが、飛び立つきっかけになる出来事。
それが刻一刻と近づいているというのに。


「香澄。 頼むから、そのままでいてくれよ」


オサムは、呟いた。