二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ-無駄な感情- ( No.73 )
- 日時: 2010/02/07 15:42
- 名前: 亮 (ID: 2nrfRM.C)
62 無駄な質問
レーダーが記す場所へたどり着いた香澄達は、目を疑った。
殺し合いなんかじゃない。
自殺なんて。
殺し合いなんかより、もっと、もっと、悲しい事実。
「英二・・・先輩・・・」(桃)
桃は、放心状態であろう英二の元へ駆け寄る。
香澄もそれに続く。
「大石が・・・」(跡部)
「なんてこった・・・こんな・・・」(宍戸)
こんなコトになっているなんて。
変わり果てた大石に、目を向ける宍戸。
誰よりも信じていた相棒において行かれる悲しさと、どうしようもない情けなさは、誰よりも分かる。
それに、おいていく辛さも、何となくだが分かる気がする。
所詮、助けられた者の想像だけれど。
大石も長太郎も、相棒を助けたかった、という気持ちは同じだろう。
桃の呼びかけにも、香澄の呼びかけにも応じず、ただ俯いているだけの英二。
肩はかすかに震え、見ていられなかった。
まるで、今にも、「俺も死ぬんだ」と言い出しそうで。
「英二先輩・・・ 私たちがいますから。 大丈夫です」(香澄)
こんな言葉しか出てこなくて。
何が大丈夫なのか、香澄自身分からなくなっていた。
「そうッスよ、英二先輩。 大石先輩の分まで、生きましょうよ」(桃)
大石先輩は、英二先輩に追ってきて欲しくて、死んだわけじゃない。
自分が死んで、英二先輩が乗り越えなくてはならない壁を、1つ減らしたんだ。
ここで、立ち止まってはいけない。
「一緒に、生きて帰りましょう」(香澄)
いつだったか、大石と交わした会話。
「生きて帰れたらさ、まず何がしたい?」
「そうだな・・・ やっぱりテニスかな」
「うん、また皆でテニスがしたいよねッ」
“また皆で”
“生きて帰れたら”
無理に決まってんじゃん。
もう、“皆”いないんだよ?
もし、生きて帰っても、誰もいないんだよ?
今までと変わりなく、テニスなんて出来るわけ無いじゃん。
「英二先輩、戦いましょうよ」(桃)
何のために?
だって、皆死ぬのに。
お前ら何で、協力なんてしてんだよ?
何の反応もない英二に、香澄と桃は言いようのない不安を覚える。
大石を失った辛さは、充分分かる。
だからこそ、立ち止まってはいけないと英二に分かって欲しい。
「皆で生きて帰って、テニスをしましょう」(香澄)
希望だけは、捨てないで。
香澄のその言葉を聞いた英二は、今まで何の反応も見せなかったが、急にこちらを振り向いた。
そして、そこにおいてある拳銃を手に取った。
「英二、先輩・・・?」(香澄)
「何やって・・・ そんなモノ、捨ててくださいよッ」(桃)
目には、涙。
でも、怖い顔。
英二であって、英二ではない。
「止めて。 英二先輩」(香澄)
香澄は、怯まずに英二を見る。
「辛さは、私たちだって充分分かるんです。 だけど、その辛さを殺意に変えないで下さいッ」(香澄)
知ったようなことを言うな。 香澄。
「大石先輩が、何で自殺したか、英二先輩にだって分かりますよね?」(桃)
バカにするなよ、桃。
分かってないのは、お前らじゃん。
「バカにすんなよ。 分かってないのはお前ら。 “生きて帰れたら”なんて、無駄なんだよッ」(英二)
「え・・・?」(香澄)
「仲間と殺し合って、憎み合って、そんなんで仮に生き残ったとして、
変わらない日々を過ごせると思ってんのかよ?!」(英二)
英二の言っていることが分からない。
「無理だよ! 今だって、変わらずにはいられないのに!
仲間の犠牲の上に立って生きて、平気でいられるわけ無いじゃん!
変わらずになんて、無理だよ!
テニスをするのだって、無理だ!」(英二)
無理、無理、無理、無理。
香澄や、他の全員の頭に、その言葉が繰り返される。
「“生きて帰れたら”なんて質問や、希望なんて、“無駄”だッ」(英二)
ここにも、“無駄”があるなんて、知らなかった。