二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.735 )
日時: 2010/05/10 19:34
名前: 亮 (ID: cX1qhkgn)

 119 鈍感すぎると損をする?




小春に連れられ、学校近くのたこ焼き屋に来ている香澄。
大阪へ来て、もう4ヶ月。
こんなコトは、今日が初めてではない。

「やっぱり、此処のたこ焼きおいしいです」(香澄)
「そやろ?」(ユウジ)
「色々種類があるから、あきへんしなぁ」(小春)

「そうですね」、と香澄は笑顔で相づちを打つ。
小春やユウジは、香澄の良き話し相手となっていた。
本来、クラスの女子と作るはずの関係を、香澄はこの2人と作っている。


「それにしても・・・ 蔵リン、今日は様子がおかしかったわねェ」(小春)


小春が、ふと白石の話題を出す。
香澄は、キョトンとして。

「そう、ですか?」(香澄)

そんな香澄に、小春が言う。

「何か、妙に焦ってへんかった?」(小春)
「言われてみれば、そうなような、違うような・・・」(香澄)
「なーんか、落ち着かへんカンジやったけど」(小春)
「はぁ・・・」(香澄)

さっぱり状況が読み込めない香澄と、全て分かり切ったように淡々と話す小春。
そして、そんな2人の会話をハラハラと見守るユウジ。

「香澄ちゃん、なんも聞いてへんの?」(小春)
「はい、特に何も」(香澄)

小春はため息をつく。

蔵リン、ダメやないの。
香澄ちゃん、相当鈍感よ。

心の中でそう呟きながら、たこ焼きを1つ口へ運ぶ。
小春は、香澄の身に起こった全てのコトを理解しているワケではない。
知っているのは、謙也から聞いたことだけ。
BRに参加し、彼女は何も悪くないが、結果的に“優勝者”として生存していること。
そんなカンタンな言葉でしか説明されていない。
だが、性格面では。
一緒に過ごすウチになんとなく理解できている。

そう、感情を、全て胸の中にしまい込む。
自分のモノだけでなく、相手の感情でさえも。


「香澄ちゃん、気がつかなきゃダメよ」(小春)


「え、?」(香澄)

いつだったか、誰かに、同じコト。
香澄の脳裏に、“彼”が思い浮かぶ。
ニコニコと笑いながら、ささやく。

“キミが気づかなきゃ。 彼らの気持ちに”

あのときは、何も考えられなくて。
何に自分が気がついていないのか、それさえ分からなくて。
それ以前に、気がついていないのは皆だって思いこんで、盲目になっていた。
今は?
今、自分は何に気がつけていないのだろうか?
小春の言っていることが、分からない。

香澄もたこ焼きを口に運ぶ。
目線を小春に戻した。

「あの、どういう・・・」(香澄)
「気づかなアカンのよ」(小春)
「え?」(香澄)

いつになく、真剣な瞳で。



「鈍感すぎるんは、損すんのよ。 香澄ちゃん」(小春)



小春は、最後のたこ焼きを食べ終え、席を立つ。

「あ、小春ッ」(ユウジ)
「ほな、香澄ちゃん。 またね」(小春)
「待ちィやぁ、小春ぅ!」(ユウジ)

香澄に笑って手を振る。
自分の名前を叫ぶユウジを無視し、小春は店の外へ出る。
ユウジは振り向いて。


「ホンマは、なんとなく分かっとるやろ? 小春のアドバイスの意味も」(ユウジ)


笑って、香澄の頭をクシャッとなでた。

「大事に想ってくれてる人のコトも。 ちゃんと考えや!」(ユウジ)

それだけ言って、小春を追って出て行った。
2人が出て行った後も、香澄は放心状態のまま、席に座っていた。

“鈍感すぎるんは、損すんのよ”
“ホンマはなんとなく分かっとるんやろ?”

2人の言葉が、木魂する。
白石さん、のコトだよね。
自分を、誰よりも大事に想ってくれている人、だと思う。
でもその白石の自分に向けている感情が、どんなモノなのか。
香澄には分からない。


恋?


香澄は、少し自惚れた考えをした。
頭を勢いよく振る。

そんなコト、あるわけ無い。
こんな厄介な女の子。
誰も好きになんかなるわけ無い。

“自分のコト大事に想ってる人”

ユウジの言葉が蘇る。

初めて会ったとき、
電話をしたとき、
大阪へやって来たとき、
オサムの話を聞いているとき、
不安なときや、
悲しいとき。

隣でいつも。

——笑ってくれてた。

香澄の中で、自惚れが少しずつ、確信に変わった。
白石はいつも隣で、自分を見ていてくれた。
支えてくれていた。
それは、きっと。











鈍感な、ままで良かった。
気がついてしまった。
あの時だって、鈍感なままのほうが、気がつかない方が、楽だったのに。
気がついてしまった。
“彼”のキモチに。










もし、本当だとしたら。















自分は、彼を恐ろしく傷つけることになる。















彼女の、ココロの闇も知らずに。


「やっぱり、俺は香澄のコト・・・」(白石)


愛してるんだ。
愛してやる。















ごめんなさい。
そんな感情、今すぐ捨てて。
私はもう、誰も愛せないから。