二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.738 )
- 日時: 2010/05/13 19:42
- 名前: 亮 (ID: cX1qhkgn)
120 どんなに楽なんだろう?
香澄に会いたい。
唐突に思った。
白石は階段を降りながら、本当に唐突に思った。
「もう、5時か」(白石)
もう、香澄達と別れてから随分経つ。
今からたこ焼き屋へ行ったところで、香澄達はもういないだろう。
そう思い、仕方なく帰路につこうと靴箱へ向かったとき、偶然オサムに会った。
「あれ、オサムちゃん部活は? まだやってる時間やろ?」(白石)
白石の話を聞いていたのかいないのか、オサムはその質問には答えず、別の質問を白石にする。
「なぁ、白石。 お前、俺の過去のコト知っとるやろ?」(オサム)
思いがけない質問に、白石は戸惑いながらも答える。
「そりゃ、この間の話聞いてたからな」(白石)
「そうか」(オサム)
「それが、どないしたん?」(白石)
「明日、俺は隼人に会う。 香澄もや」(オサム)
オサムの言葉が一瞬理解できなかった。
白石の頭の中に、様々な情報が駆けめぐる。
「香澄もって・・・ 何でや? 隼人ってヤツは、香澄達を苦しめた張本人やろ?!」(白石)
脳裏には、何かに悩んだように笑う、先程の香澄。
ああ、何故気がついてやれなかったのか。
いや、気がついたところで自分に何が出来る?
「香澄自身で、決めてコトや。 俺は賛成や」(オサム)
「だから、何でなんや?」(白石)
焦りながら、白石はオサムを問いつめる。
香澄が決めたことなのだから、オサムに応えられるはずが無いのを、知っていながら。
「知ってるんやろ? オサムちゃん」(白石)
これほど、真剣な白石を、今までに見たことがあるだろうか。
それだけ、白石の中の彼女が大きいのだ。
ゆっくりと、オサムは口を開く。
「乗り越えるためや。 香澄は、乗り越えようとしとる」(オサム)
白石に、その言葉が響く。
「香澄も俺も、乗り越えて進まなんとあかんからな」(オサム)
その言葉を最後まで聞かずに、白石は走り出す。
その背中を、オサムは見つめた。
「邪魔、したらアカンで。 楯は、戦闘の邪魔したらアカン」(オサム)
ただ、ただただ。 キミを守りたくて。
支えたくて。
走るんだ。
嘘なんて1つもない。
愛。
それは、何もかもが初めてで、
初めてにしては大きすぎる、そんな愛だった。
香澄は、1人自分の家に向かう。
「あ、」(香澄)
白石に明日学校を休むコトを伝えていないことを思い出す。
それだけではなく、隼人と会うことさえ彼に言っていない。
言えば、彼はなんと言うだろうか。
怒るだろうか、
「それは、ないよね」(香澄)
じゃ、悲しむ、かな?
それも違う。
きっと。
彼は。
「香澄ッ!」
誰も居ないはずの夕方の道で、自分を呼ぶ声が聞こえた。
香澄は驚いて振り返る。
そこには、息を切らせて走ってくる白石がいた。
「白石、さ、ん」(香澄)
「香澄ッ」(白石)
「どうして、ここに・・・」(香澄)
香澄の言葉が終わるか終わらないかのうちに、白石は香澄の肩をガッと持つ。
「!?」(香澄)
勢いで抱きしめそうになった身体を、白石はこらえた。
今此処で彼女を抱きしめても、きっと、困ったカオをされるだろうから。
「なんで、言ってくれんかったんや」(白石)
そう言う彼に、余裕なんて微塵もなくて。
「“中務”ってヤツに会うこと、なんで言わんかったんやッ」(白石)
怒っている、様子ではなかった。
手の震えが、伝わってくる。
ほら、ね。 やっぱり。
やっぱり、この人は。
怒るわけでもなく、悲しむわけでもなく。
“心配”してくれるんだ。
香澄は白石の手を自分の手で掴む。
「!」(白石)
そして、ゆっくりと口を開いた。
「すぐに、言えなくてすみません」(香澄)
心配させないように、黙っていたかった。
でも、それは違って。
「乗り越えたいんです。 だから、自分で決めたんです。 会って、話しがしたい」(香澄)
ちゃんと、向き合わなくちゃ。
そう、思ったから。
“隼人”とも“白石”とも。
「大丈夫です。 心配しないで」(香澄)
「かす、み」(白石)
「会わないと、一生前に進めない気がするんです」(香澄)
何故だか、分からない。
会わなくちゃ、いけない気がしてならない。
だけど時折、胸の当たりが苦しくなる。
「明日は、学校を休みます。 皆にも、伝えてもらえますか?」(香澄)
彼女は、笑う。
これはきっと、ニセモノで。
それでも、受け止めるって、決めた。
「黙ってて、ホントにすみませんでした」(香澄)
彼女は、それを望まない。
「心配しないでくださいね。 ホントに、大丈夫ですから」(香澄)
笑って、笑って、笑って。
俺を、誤魔化す。
苦しみを悲しみを怒りを寂しさを、全部、飲み込んで。
ただ、ただただただ、強さを求めて。
「それじゃ」(香澄)
白石の両手から、自分の手を離す。
白石は、何も言えずにその場に立ちすくむ。
泣き付かれて、八つ当たりされて、悲しみを話してもらえたら。
——どんなに、楽なんだろう。
だけど。
彼女は、そのどれも望まない。
ただただ、自分の足で。
自分のココロで。
自分だけで。
進んでいくんだ。
俺は、どうすればいい?