二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.755 )
日時: 2010/05/22 10:18
名前: 亮 (ID: cX1qhkgn)

 121 再会前




応えは見つからなくても、朝は必ずやってくる。


12月、と言うこともあって朝はとても寒い。
香澄はゆっくりと身体を起こした。
手が小刻みに震える。

「桃・・・」(香澄)

1人に時にしか、その名前を口に出さない。
ジャージを、抱きしめた。
あの時のように、温かさは戻って来ないのだけれど。

「・・・サヨナラ」(香澄)

一体、何に対しての“サヨナラ”なのか香澄にもよく分からない。
ただ、ココロがそう呟かせた。

香澄は寒さに耐えながら立ち上がり、平日だが私服に身を纏う。
今日は、隼人に会う日だからだ。
祖母には、上手く説明できなくて、「創立記念日だから」などと、すぐにバレる嘘をついてしまった。
もう、嘘にも白石にも、頼ることなく生きていきたいのに。

ふと時計を見ると、8時を指していた。
白石も、皆も、学校へ行ってる頃だろう。

「じゃ、おばあちゃん。 私行ってくるね」(香澄)

祖母は、「何処へ行くの?」「何しに行くの?」と質問を一切しなかった。
香澄はそのことに感謝しながら、まだ早いのは充分分かっていたが、家を出た。



時刻は8時半を指す。
白石は家のベットで、仮病を使って転んでいた。

「受験前やってゆーのに、何やってんやろ、俺」(白石)

自虐的に笑いながら、白石は天井を見つめる。

学校へ行く気には、どうしてもなれなかった。
今日は、学校へ行っても香澄はいない。
普段なら香澄がいなくても、多少つまらないだろうが学校へ行く。
だけど、「いない理由」を知っている自分が、学校へ行く気にさせてくれない。

行きたい場所は、ただ1つ。


「香澄」(白石)


心配なんだ。
彼女のことが、とてつもなく。
だから、俺は。

白石は立ち上がる。
家には誰も居ない。
躊躇することもなく、白石は玄関のドアを蹴破るように出て行った。



会ったって、何にも出来ない癖に。
会ったって、何にも出来ない癖に。
何も、出来ない癖に。



ただ、会いたかった。



白石は公園で足を止めた。
その瞳に、香澄の姿が映ったからだ。
何で、こんなトコロに。
そんな疑問を胸に浮かべながら、白石は声を掛けずに近づいた。

声を掛ければ、すぐに逃げられてしまいそうで。

「香澄」(白石)

肩を、ポンッと叩く。
香澄は相当驚いたようで、目が点になっていた。

「驚いたか?」(白石)

白石は、ニコリと笑う。
それは、いつでも香澄を安心させてくれるあの“笑顔”。

「何で、此処に・・・?」(香澄)

香澄はまだ驚きから解放されていない。
若干混乱気味に、白石に問う。

「通りすがりや」(白石)

見え見えの、嘘。

「そうじゃなくて、学校は・・・?!」(香澄)
「“創立記念日”、やろ?」(白石)

今度は少し意地悪そうに笑った。

「なんで、それ・・・」(香澄)

香澄が、祖母に使った言い訳だ。

「何や?」(白石)
「もしかして、うちに行ったんですか?」(香澄)
「そや」(白石)

なんの迷いもなく、白石は頷く。

「どうしてですか?! 受験もあるのに、どうして学校サボったりなんて」(香澄)

自分のために、誰かが自分を犠牲にする。
学校をサボることくらいで、大げさかも知れない。
だけど、香澄にとってそれは、とてもとても重大なことだった。

「そんなの、関係ないわ」(白石)
「え?」(香澄)


真剣な、瞳。



いつかの、皆を、桃を、思い出す——












「今、お前より大事なコトなんかない」(白石)












ああ、あの時。
「守る」、といってくれた時の皆と同じ瞳。