二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ-At the time of parting- ( No.790 )
- 日時: 2010/05/28 21:35
- 名前: 亮 (ID: cX1qhkgn)
122 変わらんな、お前。
正直、人生で一番緊張している。
と、いうより、怖いのかもしいれない。
取り返しの付かないコトをしてきた自分と、その被害者が。
実際、
自分の行為で人を死なせ、自分の行為で関係のない人を巻き込み、自分の行為で自分の場所を失った。
政府ですら、自分を捨てた。
自分は捨て駒に過ぎなかったのだ。
シナリオの決まっていた、人生だったのだ。
——あの時から。
緊張、するもんやな。
オサムは1人、そう感じていた。
自分で呼び出しておいてどうかと思うが、緊張する。
あの頃の、隼人の面影は、あるのだろうか?
「お、2時」(オサム)
約束の時間だ。
駅の目の前にある、喫茶店で待ち合わせ。
「分かるんやろな、アイツ」(オサム)
電話で細かく説明をしたから、まず間違うことは無いだろうが。
昔の隼人のアホさがそのままなら、ありえる。
ほら、頭は悪くなかったけれど、
試合ですぐに混乱して泣きそうになったり、リサと話しながら何度も噛んでいたじゃないか。
「ホンマに、アホやったなぁ、隼人」(オサム)
オサムは小さく微笑んだ。
アイツが店に入ってきて、アイツはすぐに分かるのだろうか?
俺は、アイツが分かるだろうか?
あの頃の“隼人”の面影は、あるのだろうか?
そんな心配。
微塵もいらなかった。
店のドアの開く音がした。
入ってきた男は、子供のように左右をキョロキョロした。
まだ、こちらに気がついていない。
嗚呼、何も、変わっていないじゃないか。
隼人だ。
男も、こちらに気がつく。
一歩ずつ、歩み寄ってきた。
何も言わなくても、もう、お互いを感じていた。
「オサ、ム・・・?」(隼人)
変わっていない、変わっていない、変わっていない。
あの時から。
外見は変わった。
両耳にピアスを付け、髪の毛は黒いものの、髪型は違う。
でも、それでも。
変わってなんか、いないんだ。
オサムは、笑った。
あの時よりも、素直に、笑えた。
「せや。 久しぶり、やなぁ」(オサム)
隼人も、はにかんだ。
こっちは、あの頃よりも、寂しげに。
それでも、嬉しそうに。
「久しぶり、」(隼人)
隼人は、他にも何か言おうとする。
オサムは、それを遮った。
「ま、座りや」(オサム)
「え、あ、おぅ」(隼人)
まだ、ぎこちない雰囲気が2人の間に漂う。
隼人は、タイミングを失い、思ったように話せない。
そんな隼人を、オサムは見て思う。
「変わらんな、お前」(オサム)
「は?」(隼人)
「そーやって、よう俯いとったやろ?」(オサム)
「ほら、試合でミスしたときとか」、とオサムは隼人をからかった。
「! アレは、お前が焦らすからだろ!」(隼人)
「そーかぁ? 完全な1人相撲に見えたんやけどなぁ」(オサム)
「お前がふらふら違うほう行ったんだろ?!」(隼人)
「俺は俺んとこ守っとっただけやんか」(オサム)
昔よりは低くなったが、依然少し高めの隼人の声。
それは妙に懐かしくて。
話の内容も。
妙に懐かしくて。
なぁ、リサ。
お前も、何処かで見てるか? 何処かで聞いてるか?
俺たち、また、巡り会えたよ。
でも、此処からが、本当の。
「隼人」(オサム)
笑ったあとの、真剣な声は、妙に響いた。
「全部、話しや」(オサム)
全部。
全部。
全部。
卑怯なトコロも、歪んだところも、汚いところも。
余すことなく、全部。
話せ。
香澄を、呪縛から解放してやれ。
「あぁ」(隼人)
静かに、頷いた。
「優勝者の子が、一ノ瀬香澄が来たら。 全部言うよ」(隼人)
捨て駒の、シナリオを。
隠されたレールと辿って来た、自分の人生を。