二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.812 )
- 日時: 2010/06/05 17:39
- 名前: 亮 (ID: cX1qhkgn)
123 謝罪
その頃。
香澄と白石は2人、待ち合わせの喫茶店へ向かう。
何度言っても、白石は学校へ行こうとしない。
香澄は、困惑したままだったが、少しだけ甘えてしまっているようだ。
それが、どうしようもなく、情けなくてたまらないのだが。
「香澄、駅こっちやで?」(白石)
「え?」(香澄)
白石に指さされて、立ち止まる。
まだ、四天宝寺周辺の地理は詳しくないらしい。
特に駅など、ここ最近利用していない。
「あ、そうでしたね」(香澄)
苦笑しながら、方向転換をする。
その姿は、いつもの香澄と変わりない。
自分は彼女の変化を、見抜けないのだろうか。
いつも、いつでも。
彼女は変わらない笑顔。
変わらない落ち着き。
心配でも、迂闊に質問なんて出来ない。
嗚呼、自分はなんて、臆病なんだろう。
「ね、白石さん」(香澄)
自分との会話中に、突然香澄に話しかけられ、白石は驚いて顔を上げた。
「あの?」(香澄)
「なんでもないで? 悪い」(白石)
「そうですか?」(香澄)
また、私は。
心配、させて。
「1つだけ、お願いしても良いですか?」(香澄)
「? おぉ、ええで」(白石)
普段、人にモノを頼まない香澄からの“お願い”。
白石は嬉しさ反面、不安も感じた。
香澄の表情は、変わらず穏やかに微笑んでいて。
「嫌だったら、断ってくださいね?」(香澄)
遠慮がちに、香澄は問う。
白石は首を横に振った。
「大丈夫や。 言うてや?」(白石)
香澄は、その言葉に首を縦に振った。
「止めて欲しいんです、私を」(香澄)
耳を、疑った。
「香澄?」
意味が、よく分からない。
「どーゆーコトや?」(白石)
香澄は、何かを悟っていた。
まるで。
少し先の未来を、見越したかのように。
「とにかく、私を止めてください。 行き過ぎると、思うから」(香澄)
「・・・中務に、対してか?」(白石)
白石の言葉に、香澄は否定も肯定もしない。
「お願いします」(香澄)
今まで、人に頼ることを嫌って来た彼女がどうして。
———どうして、今になって。
「分かった」(白石)
疑問を残したまま、白石は引き受ける。
壊れていく香澄を、もう見たく無かったから。
それを見た香澄は静かに、穏やかに、嬉しそうに。
そして、少しだけ悲しそうに。
微笑んでいた。
「喫茶店なら、アレやないか?」(白石)
午後2時半。
駅に着いた香澄と白石は、待ち合わせの喫茶店を探す。
カフェ、というよりは喫茶店という方が似合う、レトロな雰囲気の店。
「あそこ・・・」(香澄)
怖くない。 怖くないんだ。
香澄の心臓は、尋常では無いほどにうるさく騒ぎ出す。
冷や汗も流れた。
まるで。
あの日のように。
皆と別れた、あの日のように。
死にゆく仲間を目の当たりにした、あの時のように。
「香澄?」(白石)
白石の声で、我に返る。
「あ、えと、」(香澄)
香澄の動揺に気がつき、白石は優しく微笑みかけた。
「何があっても、何言われても、俺は隣におるからな」(白石)
ああ、なんて落ち着く笑顔なんだろう。
冷や汗が、引いていく。
震えも、止まった。
「ありがとうございます」(香澄)
この人が、いてくれて良かった。
「ほな、入ろか」(白石)
きっと、この想いを彼に伝えることは無いのだろうけれど。
「はい」(香澄)
白石が、喫茶店の扉を開ける。
カランカラン、と鈴の鳴る音がした。
堂々と。
堂々と、していよう。
皆に、恥じないよう。
私は、間違ってなんかいない。
堂々と。
堂々と、彼と話そう。
「オサムちゃん、何処や? あ、」(白石)
店を見渡す。
すると、いつもと変わらない格好のオサムがいた。
店内だというのに、帽子もかぶったままで。
「オサムちゃん、」(白石)
声を掛けようとした瞬間、白石の目に1人の男が映る。
一瞬で分かった。
アイツが、中務。
ライバルたちを全員、アイツが。
「行こう、白石さん」(香澄)
今度は、動揺している白石を、香澄が戻す。
恐ろしく冷静な彼女に、白石は驚いた。
「お、おぉ、」(白石)
香澄は、真っ直ぐ隼人の前に立った。
あの時の、悪魔のような微笑みは、もうそこにはなくて。
ただ、童顔な男が申し訳なさそうな、バツの悪そうな顔をして、座っている。
この人は、もう、悪魔なんかじゃない。
香澄は、素直にそう悟った。
皆を、あんな目に遭わせた事実は、消えないけれど。
堂々と、香澄は隼人の目の前に立つ。
隼人も、席を立った。
そして、誰も予想しなかった行動を取る。
「本当に、ごめん——————————————・・・」(隼人)
深く、深く、どこまでも真っ直ぐ。
彼は香澄に頭を下げ続けた。
謝罪することで自分の罪意識から逃げよう、とかそんなのではなく、純粋に。
逃げではなく、立ち向かうような、謝罪。
己自身と、立ち向かうような、謝罪。