二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.823 )
- 日時: 2010/06/12 15:40
- 名前: 亮 (ID: cX1qhkgn)
124 もう、どうすればいいか分からない。
頭を下げる隼人。
その姿に、香澄はかつての隼人を重ねた。
痩せた、な。 この人。
それに、表情も寂しい顔になった。
———だからと言って、この人がしたコトが私の記憶から消える日は来ない。
香澄は、1、2歩、隼人に近づく。
依然、隼人は頭を上げない。
オサムと白石は、ただただ、お互いに顔を見合わすだけ。
「顔、あげてください」(香澄)
隼人は、それでもあげない。
あんなふうに、自分たちを馬鹿にし欺き、地獄へ絶望へ訣別へ、導いた悪魔が。
こんなふうに深々と頭を下げることに、どれほどの意味があるのか。
分かっている。
どうして、顔を素直に上げることが出来ないのかも。
分かっている。
「隼人さん。 顔を上げてください」(香澄)
やや強い口調で、香澄は言う。
ココロが、堅くそして鋭く。
あの5日間の痛みと共に、冷たく冷たくなっていくのを感じながら。
———何も、感じられないや。
皆の苦しみ、皆の痛み、皆の叫び。
それ以外の何も、感じられないや。
皆、私、どうしたらいい?
「一ノ瀬、さん」(隼人)
隼人は頭を上げる。
申し訳なさそうに、香澄を名字で呼びながら。
あの時は、名前を呼んだ癖に。
「一ノ瀬さん、俺、ホントに、なんて言って良いか、分かんねェ、けど、さ」
動揺しているのか、混乱しているのか、焦っているのか。
隼人の言葉は途切れ途切れで。
自信なさげに、香澄に話す。
「少しで良い、俺の話を、聞いて欲しい」(隼人)
———話しを聞いて、何になるというの?
アナタの話しを聞いた私に、どうしろというの?
どうすればいいの?
怒れば良い? 泣けば良い? 叫べば良い? 殴れば良い? アナタを嘲笑えば良い?
それとも———、アナタを、許せば良い?
香澄は拳を握った。
「香澄、」(オサム)
香澄の高ぶる気持ちを悟ったのか、オサムは宥めるような優しい声で呼びかける。
「聞く気になんて、なれへんかもしれん。 けど、ちょっとでええ。 隼人の話、聞いてやってや」(オサム)
香澄は、オサムの顔を見つめた。
此処で引けば、なんのためにきたのか分からない。
「は、い」(香澄)
小声で呟く。
香澄の中に隠されていた、あの日からの憎悪が見え隠れする。
「・・・」(白石)
———まるで、ケンカの後に謝りたくないゆーて意地張っとる子供みたいやな。
白石は香澄を見つめながら、そんなコトを考える。
ホントは仲直りしたいのに、元通りになりたいのに、自分からは嫌って矛盾した想い。
———ま、香澄はまったく悪ぅないから、謝るっちゅーのは違うけどな。
香澄は、この中務と、どういう関係になりたいのだろうか。
白石に、そんな疑問が浮かぶ。
「ありがとう」(隼人)
香澄の答えを聞いて、隼人はうっすら微笑む。
香澄にあえて目をそらされるのに気がつきながら。
「ほな、取りあえず座りぃや」(オサム)
オサムは白石と香澄に対して、イスを引く。
自分の立ち位置がイマイチ分からないまま、白石は座った。
香澄もまた、自分の感情の行き場に困りながら、席に着く。
「もう1度、謝っておく。 本当に、ごめん」(隼人)
香澄は「謝っても戻ってこないんです」、とだけ口にした。
白石もオサムも、黙ったままで。
「それは、分かってるよ」(隼人)
隼人は真剣な顔で呟く。
「だからこそ、俺の失ったモノのコトも、聞いて欲しいんだ」(隼人)
「・・・」(オサム)
ココロを、もう1度。
痛みを、もう1度。
そして。
「まず、言っておくね」(隼人)
香澄を、真っ直ぐ見つめる。
「俺は、政府に利用されていた」(隼人)
同情して欲しいとか、許して欲しいとか、そんなんじゃないんだ。
ただ、聞いて欲しいだけ。
ただ、知って欲しいだけ。
———俺は、キミと同じ痛みや苦しみや憎悪を持っていると言うことをね。