二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.830 )
- 日時: 2010/06/26 12:38
- 名前: 亮 (ID: cX1qhkgn)
125 利用し利用され、
「俺は、政府に利用されていた」(隼人)
香澄は、隼人の言葉に怒りを覚えた。
逃げている。
何もかも、政府のせいにして。
自分の過去の言動も、ココロでさえも、政府のせいにして。
この人は逃げている。
「そんなの、逃げでしかありません」(香澄)
香澄の目は冷たく、それでいて憎悪に光っていて、優しく微笑む面影など何処にも無かった。
隼人もまた、冷静に香澄を見つめた。
「そう思われても、俺は文句言えない。 そう言うことを、してきたんだから」(隼人)
自虐的に微笑む。
香澄はもう、何も言わなかった。
「続きを言うね」(隼人)
オサムは、意気を飲んだ。
大阪の町で、のらりくらりやって来た自分と、目の前にいる隼人とでは、どう違うのだろうか。
香澄は、冷たい瞳を保っていた。
「オサムと別れた後、俺はふらふらあの町を歩いてた。 ・・・町の名前も、どの県なのかも、分からないけどね」(隼人)
—————————10年前。 某町
———腹減った。
でも、金なんかないし。
隼人はポケットに手を突っ込む。
金など出てくるハズもなく、そこにあるのはオサムのテニスボールだけ。
「ッチ」(隼人)
足が重い。
キズのせいだろうか、ジクジクと痛んだ。
———リサは、こんな痛みじゃなかっただろうな。
もっと、もっと、痛かったよな。
リサのコトばかり考えていた。
———俺が、ちゃんと復讐するからさ。
間違った、優しさ。
「痛、」(隼人)
膿んでる気がする。
腫れが半端じゃない。
隼人は、建物と建物の間の隙間に入り込み、その場に壁にもたれるように座り込んだ。
「なんか、ねぇかな」(隼人)
持ったままのデイバックをあさる。
何も有るはずないのだが。
改めてそれを確認し、ため息をついた。
刹那。
—————————
「なにかに、覆われたんだ。 布、みたいな」(隼人)
—————————
暗闇。
暗くて、何も見えなくて。
目を開いても閉じても、状況は変わらない。
「なんだ!?」(隼人)
瞬時に自分の状況を悟った隼人は、大声を出した。
外から、数人の男の声が聞こえた。
「黙らせたほうが、良いな」
「?!」(隼人)
何か、霧のような白いガスが吹き込まれた。
「なに、す、んだ、」(隼人)
その問いに、応える者はいない。
「この、野郎、出せ、出せよ!!」(隼人)
———誰なんだ、誰なんだよ、なんだ、なんなんだ、なんだんだ、コイツら!!!!
空腹と怪我で衰弱仕切っていた隼人は、そのまま意識を失った。
「・・・おとなしく、なったか」
「上も人が悪い」
「ああ、こんな子供、どうするつもりなんだかな」
「まぁ、俺らの知ったことじゃない」
「・・・利用するだけ、だしな」
—————————
「次に目を覚ましたときは、もう政府の施設の部屋にあるベッドの上だったんだ」(隼人)
—————————
なんだか、懐かしい温もりだった。
暖かい空気も、この温もりも、懐かしくてたまらない。
起きれば、母さんが朝ご飯を用意していて、それを食べて、テニスバックを持って、学校へ出掛ける。
そうすれば、大好きな、大切な、アイツらが——————————
笑って、俺を待っている。
「ん・・・」(隼人)
ゆっくりと目を開ける。
見覚えのない天井が、その瞳に映る。
部屋の全貌を見ようと、身体を起こした。
「ッ」(隼人)
キズが、痛んだ。
はっきりとしなかた意識が、その痛みのせいで急速に鮮明なモノになる。
足を確認すると、綺麗に包帯が巻いてあり、治療されていた。
再び、部屋に視線を戻す。
———何処だ、此処。
霞む目をこすりながら、何度も部屋を確認する。
乳白色の壁紙の部屋には、自分が寝ていたベッド以外には何も無い。
———俺は、どう、して・・・
隼人の頭には、疑問しか浮かばない。
取りあえず何とかして、自分の状況を確かめなければ。
そう思い、痛む足をバッドから床に下ろした時だった。
「・・・此処です」
ドアが、ゆっくりと開いた。
数名の男が、何かを話しながら部屋に入ってくる。
「! 何をしている!」
1人の男が、隼人が床に足を下ろしているのを見て声を荒げる。
「今度ばかり、逃げられると思うなよ」
厳つい顔を近づけ、隼人をベッドに戻す。
隼人は一言も口にせず、素直にベッドに戻った。
「止しなさい。 彼には、まだ状況が掴めていないのだから」
「新堂さん ————すみません」
新堂と呼ばれた男が、隼人にゆっくりと近づいてくる。
長身で細身の線の細い印象のその男は、笑みを浮かべている。
優しく、穏やかに、何もかもを優しく包み込むような笑顔だった。
だが、どうしようもなく。
嘘で満ちていた。
「・・・」(隼人)
———この人だ。
隼人は、瞬時に悟る。
———コイツが、リサを、皆を。
顔に“笑顔”を貼り付けた男は、隼人の両手を取り、強く握った。
「ようこそ。 ————キミは、選ばれたんだよ」(新堂)
何に選ばれたのかなんて、特に気にならなかった。
目の前の男の笑顔に比べたら。
貼り付けられたその“笑顔”を、後に自分も同じように貼り付けることになるとは———
この時は、微塵も思わなかったんだ。