二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.834 )
日時: 2010/07/02 20:54
名前: 亮 (ID: TtH9.zpr)

 126 エラバレシシニガミ




「選ばれたんだよ———————」

新堂の声が、木魂する。
隼人はキョトン、と見上げるだけ。

「突然すぎて、状況が分からないかな? これから説明するよ」

ただただ、その貼り付けられた笑顔をみつめた。



———————



「その時、色んなコトを聞いたんだ。 BRについて。 本当に、色なことを」(隼人)
「・・・」(香澄)

隼人が、1口コーヒーを飲んだ。

「誰もきいちゃいないのにさ。 1人でずぅっとしゃべってんの。 アホみたいに」(隼人)

切なく、笑う。

「まさか、自分がそれになるとは、思ってもみなかったけど」(隼人)

誰も口出しせずに、隼人の話を聞いていた。
オサムも香澄も、自分の経験をひたすら脳裏に思い浮かべながら。
ただ白石だけは———1人、想像力に頼るしかなかったのだが。

「俺たちが参加させられたBRは、ただの“前夜祭”だったんだ」(隼人)

その言葉に、オサムが反応する。

「どーゆーコトや?」(オサム)
「試しっていうのかな・・・ 本番前の、リハーサル」(隼人)
「じゃ、私たちのが、本番・・・?」(香澄)

隼人が、一層悲しそうな瞳で香澄を見た。


「そういうコトだね」(隼人)



——————



「理解、出来たかな?」

新堂は、なおも微笑む。
悲惨で恐ろしく、愚かな政策を一通り話を終えた後で。
これ以上ないほど、爽やかな笑みを浮かべていた。
まるで自分が、善人であるかのように。

「俺たちは、試された、って、コト・・・」(隼人)

誰に問うワケでもなく、小さく呟いた。
沸々と、怒りが湧き上がるのを感じながら。

「そうだよ」

新堂は、先程とは違う嫌らしく嗤う。


「可笑しいと、思わないかい?」


その次に出た言葉が、隼人と隼人を取り巻く世界を狂わせた。

「?」(隼人)

冷静であれば、新堂の言葉が間違ったモノだとすぐに理解できた。
冷静であれば、怒りの矛先を向けるべき場所くらい、自分で判断できた。
どれも————冷静であれば、の話だ。

隼人は、冷静ではなかった。

ただ、この世に生きている人間全員が憎かった。
今この瞬間、両親の愛情を感じている者、あるいは、両親の愛情を感じられない者。
今この瞬間、トモダチと笑いあっている者、トモダチと喧嘩している者。
今この瞬間、愛する者と身を寄せ合っている者。



今この瞬間————、上を目指して、テニスをする者。



ただ、ただ、ただ、憎くてたまらなかった。
———だからこそ。
判断を誤った。
というより、良いように誘導された。


「可笑しいと、思わないかい?」








「キミと同じようにテニスをしているのに、何の苦しみも感じず、楽しんでいる者がいるっていうのは」








「キミたちだけが————————————引き離されてしまったなんて、可笑しいと思わないかい?」



——————



「それで、彼方は———」(香澄)

隼人は、罰悪そうに俯いていた。

「彼方は、それで———」(香澄)

耐えられない。
何か話していないと、耐えられない。
この、何もかも見透かしたような瞳に。


「そうだ。 俺は、新堂の言葉に呑まれた。 消えればいいって思ったんだ」(隼人)


シンガミガウマレタ。

「・・・ッ」(香澄)

その感情は、何度も感じた。

———桃。 私たち、誰を憎めば良いのかな。
  
目の前にいるこの人は、本当に苦しそうなんだ。
本当に、中身の無い人間だったんだ。
私たちを呑み込んだ悪魔は———、別の悪魔に呑まれていたんだ。

———ねぇ、桃。 聞こえてるかな? 

ココロの中で、呟く。



———私、この人を憎んでも、良いのかな?



——————



政府に用意された部屋で、1人泣いた。
リサが死んで以来、忘れていた“涙”が全部溢れた。
声も出さず、嗚咽を呑み込んで泣いた。


———どうすればいい?


新堂は、あるコトを隼人に提案した。



“どうかな?”



“良い条件だと思うんだ”



“憎しみを、全部取り払うのには、丁度良いよ”



“受け入れてくれるなら、キミの生活は保障するよ?”



そんなコトは、どうでも良かった。
自分の生活など、どうでも良かった。



“罪悪感なんて、感じなくていい。 キミも【被害者】なんだから”




偽善者が、良く言えたものだ。
隼人は、歯を噛み締めた。










“俺は、もうリサ以外の誰の幸せも願わない。 他人の幸せなんか、潰してやるよ”











———悩むコトなんて、何もないじゃないか。

隼人はたくさんのモノをなくした。
仲間を失い、大切な人を亡くし、相棒を捨てた。
そんな彼が、生きる道なんて限られている。

“復讐”

彼の脳裏に、過去の自分の言葉が響く。


「そうだ」(隼人)


もう、誰の幸せも願わない。
だって、リサはいないのだから。
代わりに、潰してやるよ。


俺たちはただ、テニスをしたかった。
俺たちはただ、誰かと共に歩みたかった。
俺たちはただ、誰かを愛し続けたかった。

俺たちは、俺たちは、ただ、ただ—————————



テニスがあったから。
出会い、恋をし、喧嘩をして、笑って、泣いて、それから、別れた。
二度と会えない、訣別。


やってやる、殺してやる。
苦しみを、味わえ。
俺たちの苦しみを、受け入れろ。
同じように、死んでいけ、消えていけ、糞野郎共。










「これが、俺なりのテニスへの関わり方だ———————————————————」(隼人)















リサの泣き声が、聞こえた気がした。