二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.840 )
- 日時: 2010/07/04 15:34
- 名前: 亮 (ID: TtH9.zpr)
127 憎しみの矛先
そんなコトがあったなんて。
知らなかった。
隼人の過去。
のうのうと生きていたのは、俺だけじゃないか。
あの日別れてから、コイツものらりくらり生きてんだろうと思っていた。
リサのコトを想い続けながら、それなりに生きていたんだろうと思っていた。
それで、くだらない復讐や趣味で、再びBRを企画したんだと———
思いこんでいていた。
オサムはどうしようもなく情けなかった。
自分は、自分はなんていう勘違いを。
隼人の判断は、確かに間違いだ。
だが、それに至るまでの経緯を、オサムは知らなかった。
「一ノ瀬さん、オサム、」(隼人)
隼人が2人の目を交互に見る。
そして、白石にも目を向けた。
「キミも」(隼人)
「え」(白石)
「本当に、悪かった」(隼人)
香澄は、胸が張り裂けそうだった。
どうしていいか分からない。
その胸で沸々とためて煮ていた憎しみの行き場を、見失ってしまった。
「そんなに、謝らないで、くださ、い」(香澄)
この憎しみは、誰にあてたらいい?
「一ノ瀬さん。 俺は、同情して貰うために話したんじゃない」(隼人)
香澄は首を振った。
「?」(白石)
私1人の判断で、この人を許すわけにはいかない。
だけど、きっと皆。
きっと皆、私がこの人を憎んで責め立てたら、怒るよね?
「きっと」(香澄)
皆。
皆は、きっと。
誰かを憎み続ける私のことなんて、大嫌いになるよね?
だって皆。
あの日仲間のコト、誰1人として憎んだりしなかった。
どんなに狂っても、どんなに壊れても、どんなに墜ちても、仲間を憎むことはなかったよね?
だから。
だからね、私も。
憎むことは、やめるよ。
「皆も、アナタを憎んだりしていない、と思います。」(香澄)
涙は、もう流れない。
涙は、もう枯れ果てた。
「!」(隼人)
自分には、許して貰う資格も、同情される資格もない。
だけど。
彼女の言葉に、甘えても良いのだろうか?
「アナタのしたこと、私は忘れないと思います。 忘れられないです。 許すつもりも、無い、です」(香澄)
香澄は、微笑んでいるワケではなかった。
「だけど、アナタを認めたいし、信じたい」(香澄)
いつも1人で。
いつでも時はあの日のまま止まっていた。
そんな隼人のココロが、少しずつ動き出す。
「アナタの人生を、認めたいです」(香澄)
隼人の瞳が、少しだけ光る。
それは、何度も見た彼らと同じだった。
「ありがとう」(隼人)
自分のコトを道具として利用し、自らの手を汚さすBRを再起格へ導いた政府。
隼人を認めようとしなかった政府。
隼人を信じようとしなかった政府。
だけど、此処には自分を認め、信じてくれる人がいた。
「だけど、1つだけお願いがあるんです」(香澄)
「?」(隼人)
隼人は、涙を拭って顔を上げた。
真剣な瞳を、今なら受け止められる。
「BR法廃止、に手を貸してください」(香澄)
私は、自分の人生をそれに掛けるつもり。
——————
「・・・隼人」(オサム)
香澄たちが出て行った後、オサムは隼人へ語りかける。
「ん?」(隼人)
オサムの瞳は、いつになく真剣で、香澄を思い出させる。
「悪かった」(オサム)
「な、何が」(隼人)
突然の謝罪に、隼人は動揺を隠せない。
オサムは更に続けた。
「俺、リサを失った日に泣かんかったな」(オサム)
「あ? あぁ、」(隼人)
2人の頭にリピートされるあの日。
飛び散る血も、リサの温もりも、リサの声も、言葉も、鮮明に思い出せる。
「あれはな、俺ん中にリサがまだいるからや」(オサム)
隼人は、ワケが分からない、という表情をした。
「そんなのは、俺も一緒だよ」(隼人)
オサムは首を振る。
そして、隼人の左胸を突いた。
「お前の此処に、リサはおらん。 せやから、お前はあの日泣いた。 本当にリサを亡くしたからや」(オサム)
「・・・」(隼人)
「俺の胸には、おった。 リサは、ずっと」(オサム)
隼人は黙って思い出した。
確かに、聞こえなかったし、思い出せなかった。
何度目を閉じても、何度耳を澄ませても。
リサの声なんて、姿なんて、思い出せなかった。
「今、どや?」(オサム)
「え?」(隼人)
目の前のオサムは、もう今まで通り笑っていた。
「今なら————、聞こえるんとちゃうか? リサの声」
——————
納得のいかない人が1人。
「香澄! 待ちぃや!」(白石)
白石は、前を早足で歩く香澄の方を掴む。
「白石さん、どうしたんですか?」(香澄)
香澄は、スッキリしたような、それでいて何処か寂しそうに、微笑んでいた。
白石はその顔を見た途端—————————
どうしても、抱き寄せたくなった。
「?!」(香澄)
「お願いやから。 弱いトコ見せてくれ」