二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.843 )
- 日時: 2010/07/11 15:49
- 名前: 亮 (ID: TtH9.zpr)
- 参照: たくさんの願いと引き替えに、キミを。
夜になると、いつも2つのコトを思い出す。
あの5日間の悪夢。
一瞬にして平和を崩しておいて、その後はじわじわと自分たちを絶望へと墜としていったあの5日間。
大好きなヒト。
確認しあうのは、遅すぎた。
もう1つは、まだ返事をしていない、“お願い”をされた、あの夕暮れのコト。
【八章】 -いつのまにか大人になって-
時が経つのは、恐ろしく早い。
楽しい時は、時間が早く過ぎると言うけれど、悲しいときだってそう変わらない。
楽しさも悲しみも、寂しさも賑やかさも、喜び怒りも、全て呑み込んで、時は過ぎていく。
そこには永久も永遠もない。
“時間が解決してくれる”
そんなこと、誰が言ったのだろう。
時はたくさんの問題を抱えたまま、感情だけを呑み込み、今日もまた、過ぎていく。
129 隣の部屋
カップのココアを飲み干し、綺麗に光る白色の髪の男が立ち上がる。
「もうこんな時間やな」
男がそう言うと、ソファに座ったままの女が振り向いて時計を確認した。
「あ、ホンマ。 明日が来てまうわ」
「ほんなら、香澄、俺帰るわ」
「せやな、寝なアカン。 ・・・蔵、泊まってってもええで?」
最後は、からかうようにニヤリと笑って呟く。
蔵と呼ばれた男——、白石は、頬を赤くした。
「アホなコトぬかすな! 長い付き合いやからって、そんなことゆうたらアカン」(白石)
マジメに返され、香澄は声を上げて笑う。
「もう、冗談やのに。 ジョークやのに」(香澄)
「そ、そんな、笑うトコやないやろ?!」(白石)
「だって、可笑しいやんか。 蔵マジメすぎる・・・!!」(香澄)
白石は恥ずかしげな表情のまま、玄関へと向かう。
香澄も、その後に付いた。
そして、靴を履きながら、思い出したように振り向いた。
「せや」(白石)
「?」(香澄)
「明日、金ちゃんが会われへんかってゆぅとるって、小春から連絡あった」(白石)
「金ちゃんが? なんで?」(香澄)
「詳しいコトは訊いてへんからなんとも言えんけど、ええコトでもあったんとちゃう?」
———金ちゃんのええコトって、報告しきれんくらいありそうやけどなぁ
香澄は金太郎が皆を集めてまで伝えたいコトを考える。
いつでも楽しそうな金太郎の、更に良いこと。
「まさか、結婚?!」(香澄)
「?! びっくりした、否、それはないやろ・・・」(白石)
「そやな、さすがに、それは」(香澄)
香澄の頭に勝手に出てきた、金太郎と他の誰かのウエディング映像を脳の奥の奥にしまいながら、香澄は呟く。
「懐かしいなぁ。 皆で集まると、いっつも思うわ」(香澄)
「・・・中学の頃が、なんか1番忙しかったわ」(白石)
「せや」(香澄)
香澄がそう言ったきり、しばしの沈黙が訪れる。
2人とも、中学のことでも思い出しているのだろうか。
先に沈黙を破ったのは、白石だった。
「ホンマに、良かったな。 香澄」(白石)
香澄は、顔を上げる。
そして、微笑んだ。
10年前と変わらない、穏やかで何処か寂しげな、笑顔。
「ありがとうな、今日までいろいろ」(香澄)
香澄は、何気なくそう呟く。
「何やその言い方。 お別れみたいやろ」(白石)
白石は笑いながら、軽い調子でその言葉を返した。
香澄も笑いながら、同意して、「ごめん、」と一言謝る。
「隼人さんやオサムちゃんも頑張ってくれたみたいやし。
こんなに早く、廃止が実現したんやから、2人に感謝せんと。 私の手柄やないわ」(香澄)
香澄らしいその言葉に、白石は微笑んだ。
「なんにせよ、ホンマに良かった。 皆、喜んではるわ」(白石)
「悔しがってるんじゃないかなぁ、自分たちでしたかったって」(香澄)
「そうかもな」(白石)
白石は、玄関の戸を開ける。
「ほんなら。 ・・・ってゆうても、隣の部屋やけど」(白石)
「いつものことやん。 おやすみ、蔵」(香澄)
「おー、おやすみ」(白石)
白石が自分の部屋に入っていくのを確認し、香澄も自分の部屋へと戻る。
シンとした部屋のソファに寝ころびながら、再びニュース番組を付けた。
手には———、“桃城”と書かれた中学時代のユニフォーム。
白石がいた時には、洋服ダンスにしまっていた。
「見て。 桃」(香澄)
静かに、ユニフォームへ語りかける。
気が狂っているワケではない。
墓の無い彼らに、伝えようとしているのだ。
「ほら、見える? 聞こえる? BR、なくなったで」(香澄)
あの5日間が、香澄の脳内にリピートされる。
銃声、悲鳴、泣き声。
血だらけの武器、血だらけのユニフォーム。
そして、それでも必死に生きる、自分と彼ら。
「もう、心配せんでええよ。 もう誰も、犠牲になんかならへんよ」(香澄)
しっかりと定着した関西弁で、何度も何度も語りかける。
「私も————、ちゃんと笑っとるから」(香澄)
一ノ瀬香澄、24歳。 社会人。
まだまだ、ココロはきっとコドモ。