二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.845 )
- 日時: 2010/07/13 23:04
- 名前: 亮 (ID: TtH9.zpr)
- 参照: たくさんの願いと引き替えに、キミを。
130 違う闇
101号室が、白石の部屋だ。
そして102号室が香澄の部屋。
壁に耳を近づければ、向こうの声が聞こえてきてしまうほど、薄くて古いアパートの壁。
もっとも、2人とも1人暮らしなので、1人で声を上げるコトなどほとんどないのだが。
白石は102号室側の壁に寄りかかるようにして座り、真正面においてあるテレビを付けた。
『中学3年生や各部活動などを対象としたバトルロワイアルが、先日午後、正式に廃止が決定されました———』
香澄の部屋で見たのと同じようなニュースを、アナウンサーが淡々と伝える。
そして、続いて、オサムや隼人などのコメントが発表された。
「へぇ。 やっぱ、並みのコトやないんやなぁ」(白石)
法律を1つ、廃止に追い込んだ隼人とオサム、そして香澄。
3人は、本当に凄いと思う。
ある意味では、復讐を成し遂げたのだ。
自分たちの人生を狂わせた、最悪のゲーム。
それを、己の手で壊した。
香澄は、「自分の手柄じゃない」と呟いたが、そんなことはないと白石は思う。
未成年の時から、署名集めに励む香澄の姿を、何度も何度も目にしている。
「———————俺には、想像もつかんキモチやったんやろな・・・」(白石)
テレビだけが淡々と音を発する薄暗い部屋で、白石は誰に言うともなく呟いた。
強いて言うならば———、あの時、何も出来なかった自分に向かって。
未だに解らない。 想像出来ない。
たくさんのモノを失った、香澄たちのキモチ。
解りたくて、知りたくて、仕方ないのに。
——————
香澄は仕事へ出掛ける。
雑誌編集の仕事だ。
この仕事ならば、他者へ影響を与える機会も多い。
そう思って選んだ仕事だが————、もう、そんなコトを考える必要もないのだな、と香澄は微笑んだ。
「(キモチが軽くなった———、て感じは、しないかな)」
香澄は心中で呟く。
確かに、10年越しの復讐が、悲願が、叶ったのだが。
何故か、香澄のココロには淀んだ水がたまっている。
理由は———————、
「(きっと、)」
香澄は、目を閉じる。
聞こえるのは、“彼”の声。
大切な、“彼”の声。
「(私は、甘えている)」
彼に、甘えている。
彼の優しさを利用して、そのココロに寄生して、ずっとずっと、彼から自由を奪っている。
素直に喜んだり笑ったり、キモチを伝えること、それを彼は、私のために我慢している。
香澄は知っていた。
“白石”の自分へのキモチを。
10年前から、ずっと自覚していながら、面と向かって言われて置きながら、ずっと“保留”にしている。
「(最低。 蔵、ずっと私の側にいるために、いろんなモノ我慢、してるのに)」
進学も就職も、白石は常に香澄のコトを考えていた。
口には出さなかったが、香澄は知っていた。
だからこそ、香澄は離れようと思えなかった。
「(・・・あの時、のこと、何か言ったほうが良いのかな。 それとも、此のまま・・・)」
“弱いトコ見せてくれ”
そう呟いた後、白石は香澄に向かって更に————
“泣いてくれ、辛いなら言ってくれ”
力なくそう呟いた。
その声が、耳に残っている。
だけど。
結果として、彼女が白石の前で泣くことは、一切無かった。
——————
「おさよーさん、香澄」(白石)
ドアを開くと、そこにはいつものスーツ姿の白石がいた。
「おはよう」(香澄)
「準備出来てるやろな」(白石)
「当たり前や。 時間厳守は社会人の掟やで」(香澄)
「何やそれ」(白石)
「私が作った」(香澄)
そんな他愛のない会話を交わしながら、バス停へと向かう。
それは、一緒に通学したあの頃と、何も変わらない。
バスへ乗って、それぞれの目的地で降りる。
「それじゃ、私此処やから」(香澄)
「ほな、また夜にな。 駅前待ち合わせ」(白石)
「了解。 楽しみやね。 金ちゃんの話」(香澄)
「せやな」(白石)
香澄は白石に手を振り、ビルの中へ足を踏み入れる。
昨日前とは違う、“ココロの闇”を抱えて、今日も仕事へ励む。
今夜の、中学のメンバーとの集まりを楽しみにして。
お互いの悩みも知らずに、香澄は上機嫌を装って、仕事に励む。