二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.858 )
日時: 2010/07/22 16:14
名前: 亮 (ID: TtH9.zpr)
参照: 俺は嘘を吐き出す、彼女は嘘を喰らう、俺は彼女に呑まれる。

 133 あの時、俺はアイツよりも弱かった




金太郎の急な発言に、皆動揺を隠せない。
香澄も無論その1人だ。


「何処やねん、アメリカ。 つーか、アメリカってなんやねん!!!」(謙也)


医者志望で、医学部の卒業試験に向けて勉強中の謙也にあるまじき発言。
オサムはため息をついた。

「アホぉ、日本の西にある合衆国や」(オサム)
「違う。 北アメリカ大陸、および来た太平洋に位置する連邦共和国で、正しくは日本の東だ」(隼人)

巫山戯たことを言うオサムに、応えになっているのかなっていないのか分からない解答をする隼人。

「いや、そんなんはどうでもええねん、」(謙也)
「どうでもよくないわ! アホちゃうか?!」(ユウジ)

ユウジの鋭いツッコミに、謙也は一時冷静になる。
白石は呆れたように苦笑い。

「そんなに騒いだら、金ちゃん話せへんやろ?」(白石)

「なぁ、」と金太郎のほうを見る。
金太郎は、恥ずかしいのか、柄にもなく俯いている。

「なんや、らしくないなぁ」(財前)

香澄は頷く。

「ね、金ちゃん、全部教えてや?」(香澄)
「え、あぁ、」(金太郎)
「・・・・・・、やっぱり、テニスと?」(千歳)

千歳がそういうと、金太郎は静かに頷いた。

「せや。 俺、さっきも、そのコーチと会っててな、それで、スーツやねんけど」(金太郎)

謙也は、「ああ、それで」と、納得したような表情。

「そのコーチから、前々から話貰っててん」(金太郎)





「アメリカで、世界一狙わんか・・・・・・って」(金太郎)





その言葉に、その場にいる誰もが息を呑む。
そして、誰もが表情を明るくした。

「すごいやん!! 金太郎さん、惚れるわぁ」(小春)
「浮気か!! 死なすど!!」(ユウジ)
「たいしたもんばいね〜」(千歳)
「本当や。 ビックリしたわ」(小石川)
「ぬん」(銀)
「すごいなぁ ・・・・・・、いや、スーツ、バカにして悪かった」(謙也)
「話デカイわ」(財前)

皆が口々に金太郎をたたえる。

「よぉやったなぁ、金ちゃん。 この間の大会も、優勝やったしなぁ」(白石)

白石が、頭をポンポン、と撫でる。



「おめでとう。 さすが、日本№1やね」(香澄)



香澄も、笑う。
それが、皆の、声が、金太郎に、何故か重たく重たく、のし掛かる。







激しく、否定。
首を大きく振った。







「・・・・・・?」(白石)
「金ちゃん?」(香澄)


「ちゃう、ねん」(金太郎)


———違う、違う違う違う違う!!!

そんな金太郎の叫びは、誰にも聞こえなくて。

「何、が」(財前)
「全然、1番とちゃう」(金太郎)
「は?」(財前)
「ワイは、そないに強くない」(金太郎)

金太郎は、もう何度も色々なテニス大会で優勝し、何度もテレビで放映されている。
その実力も、スポーツニュースでも特集されているのを、香澄は見たことがある。
その度に、何故だか誇らしげなキモチになったのだ。
それなのに。
その張本人である金太郎は、その実力を否定する。

「金ちゃん?」(白石)

白石が、心配げに問う。


「あの、時」(金太郎)


「え?」(白石)

金太郎は、拳を強く握る。















「あの時・・・・・・!! ワイは、アイツより、弱かった!!」(金太郎)















大きな声が、焼き肉屋の個室に響く。
もう誰も、明るい表情などしていない。
金太郎の言う、“アイツ”。
それが誰のか、一瞬で理解出来たからだ。

「思い出してや皆、」(金太郎)

金太郎は、顔を上げて皆の顔を見た。


「あの、全国大会決勝を!」(金太郎)


青学が優勝した10年前の全国大会。
2−2で迎えた、S1。
青学の全てを背に抱え、その舞台に上がったのは———————————



「青学の柱、超1年生の、越前リョーマ」(金太郎)



「リョー、マ」(香澄)

懐かしい名前を、香澄は呟く。
彼は、きっと、世界を舞台に戦う筈だった選手。
天衣無縫の極みを操り、“神の子”を下した“サムライ”。


だが、そのどちらも—————————、今は此の世に存在しない。



「コシマエは、強かった」(金太郎)



強かった。
そして、誰よりテニスを楽しんでいた。

「ワイは、あの立海の大将さんに、敵わんかった」(金太郎)

肩に掛けられた、ジャージを墜とすことすら、叶わなかった。

「敵わんどころか、相手にすらならんかった」(金太郎)
「・・・・・・そんな」(小春)
「せやけど、」(金太郎)

そこで、1度言葉を止める。
脳裏には、あの試合が蘇っているのだろうか。





「コシマエは、勝った。 コシマエは、ワイよりずっとずっと、ずぅっと、強いんや!」(金太郎)





香澄は言葉が出ない。
何も浮かばない。
金太郎の悩みは、どうしようもない。

「コシマエが生きとったら、絶対、アメリカに行くんはワイやなかった」(金太郎)
「金ちゃん!」(白石)

白石は強い口調で呼びかける。
だが、金太郎は答えない。

「ワイは、弱いのに、カタチだけの1番なのに、」(金太郎)

















「ホンマに、ワイがアメリカ行って、ええんかなって、思うねん————————」(金太郎)

















金太郎は、目にかすかに涙を滲ませながら、呟く。

この悩みばっかりは、どうしようもない。

“弱いと思うなら、戦って越えればいい”

それが出来れば、金太郎はこんなことで悩んだりしないだろう。
それは出来ないのだ。
決して、越えられないのだ。










かつてのライバルは、もう何処にもいない。