二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.869 )
日時: 2010/08/08 22:52
名前: 亮 (ID: TtH9.zpr)
参照: 錯覚。 自分で作り出す、幻想の世界。

 136 錯覚




「廃止・・・・・・、か」

1人の男が、ニュース番組を見ながら呟く。

「俺たち、結局何にもしてないッスけどね」

後ろで缶ジュースを持った男も、テレビに近づいて言う。

「だな。 俺たちは結局、“アイツ”に助けられたってワケか」
「そーゆーことッス」
「・・・・・・、俺たちは、何もしてやれなかったな」

切なげに俯いて、僅かに微笑む。
そんな姿を、ジュースを飲みながらみつめた。

「まだ、引きずってんスか?」
「え、」


「彼女にとっての1番の幸せって言って諦めたじゃないッスか」


鋭く鋭く、睨んでいる。










「アンタは・・・・・・、此処へ来るべきじゃ、なかったんじゃないッスか?」










——————



「待たせたな、」

白衣を身に纏った男が、同じく白衣の男に缶コーヒーを投げる。

「いや、そんな待ってへん」
「そうか。 ・・・・・・、実習の時間が押してな」
「忙しいなぁー」

そんな他愛のない会話を続けながら、2人は大学の校舎の屋上にいた。
謙也は柵にもたれるようにして、白石はベンチに座って、いつも通りだった。
そんないつも通りを、謙也は崩す。


「・・・・・・、香澄、まだはっきりしてへんみたいやな」


「? 急に、なんやねん、」

唐突に香澄の名を出され、あからさまに動揺する白石。
謙也は、クスリ、と笑った。

「否、焼き肉の時、ちょっとな」
「ちょっと、なんやねん」
「ちょっとはちょっとや。 なーんか、廃止になったのに、手放しで喜んどる感じやなかったやろ?」

謙也のその言葉に、白石は止まる。


———手放しで・・・ 喜んでない?


改めて、昨日からの彼女を思い浮かべる。
変わらない、初めてあったときから変わらない、あの陰のある微笑み。
何処か寂しそうな背中。
ふとした瞬間に、消えてしまいそうな、彼女。


「そう、かもしれへんな・・・」


白石は寂しそうに呟いた。
10年。
長い年月の間に、彼女のココロの奥に入り込めたような錯覚を起こしていた。

「・・・・・・、俺も、“おかしい”って思うまでに、時間かかったわ」



“錯覚”



「香澄は、何考えとるか、イマイチ掴めん」
「せやな、未だに、解らんわ」







錯覚から、目覚めると、世界は酷く色褪せて見えた。







「なぁ、白石」

謙也は、真面目な表情のまま言う。

「なんや」
「お前のため、やで?」
「は?」
「無理なコト、進めとるワケでもないで?」
「なんのコトや」

謙也はコーヒーを一口呑む。





「香澄のコトは、」





解ってる。
そんなこと、10年前からずっと、解っていたんだ。



——————



携帯の着信音が、響く。

「あ、」

香澄は慌てて携帯を手に取った。

———仕事中はマナーモードにするべきやなぁ

自己反省しながら、受信ボックスを開くと、可愛い後輩の名前が。



“メールとか苦手で、どうしてええか解らんかったけど。
 こーゆーこと会って言っうのも難しいやから、ゆるしてや”



件名もない、絵文字も顔文字もない、明らかに不慣れなことが解るメール。



“焼き肉の時、ありがとう”



“たぶん、辛いこと思い出させてしもたと思う”



“そのおかげで、決心ついた”





“来週、アメリカへ行く”





香澄は、思う。

———私、最近涙もろいんやろうか。

ずっとずっと、解らなくなっていた“涙”の在処。
それなのに、何故か最近、そこが見つかってしまったようで。
皆のいろいろな言葉が、“涙の在処”を突く。

「・・・・・・、金ちゃん・・・」

ほら、もう滲んで携帯の画面がよく見えない。

「頑張れ」

そんな言葉、彼にはもう不要なのかもしれない。



———皆、皆、進んで行くんやね。



迷惑を掛けてきた人に、恩返しできたようで。
香澄のココロは少しだけ軽くなる。
それと同時に———、


少しだけ、寂しさが募る。



———私も、いい加減。

謙也の言葉が、脳裏に響く。
思い浮かぶのは、いつも隣にいてくれる彼。
だけど、いつも香澄のココロにいるのは。


今、自分を包んでくれている彼。

過去、包んでくれていた彼。


後者の“彼”は、きっと、自分の幸せを望んでいるだろう。










だけど、なれる筈がない。




今のこの幸せは、自分で作り出した、





“錯覚”





に過ぎないのだから。