二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.881 )
- 日時: 2010/08/22 19:35
- 名前: 亮 (ID: TtH9.zpr)
- 参照: どうして全部、彼方には解ってしまうんだろう?
138 誤魔化しは、効果が薄れていた
「ほなら、ゲーム開始や」
謙也がそう言い、手元にあるカードを適当に配り始める。
「今度は絶対負けへん!」
「謙也さん、それは無理あるますわ〜」
「黙れ、光」
そんなやりとりも在り、カードを配るだけで大騒ぎ。
5人しか居ないというのに。
本当に、中学校の修学旅行のノリだ。
それぞれの胸の中に蟠りがなければ、もっとそれらしかったかもしれないが。
「ほな、俺から行かせてもらいます」
「いやや、ワイから行く」
「しゃ−ないなぁ」
金太郎がまず、カードを出す。
順番は、金太郎、財前、謙也、香澄、白石だ。
それでいくと、香澄は“4”を出さなければならない。
——あ、良かった、さすがにあるや。
安堵し、なんの問題もなくカードを出す。
続く白石も、平然とカードを出した。
「案外、嘘やったりして」
謙也が、悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「ちゃうわ、ちゃうちゃう」
「今は信じといてやるわ」
そして、謙也も出す。
謙也は1人出す事にちょっかいを出していく。
「うるさいでー、謙也ぁー!!」
「もう誰にも俺を止めることは出来へん」
「何やそれぇ」
——楽しい。
「出したモン勝ちや!!」
「意味分からんッスわ」
香澄は、自然に笑っていた。
作った笑みじゃない、自然な、自然な。
ずっと前から見失っていた、笑顔。
この人たちとなら——、取り戻せる。
「謙也、甘いで。 ダウトや」
「?! な、なんでや」
謙也はうっすら冷や汗。
「んんー、絶頂!! 俺の手札に、13は全部集まっとるからや」
白石の声が、夜の部屋に響く。
「な、なんでや!!」
「悪いな、謙也。 さっきの“ダウト”全てこのためや」
ははは、と乾いた笑いを香澄は溢す。
先程、白石が初めてのダウトとなった。
相当の量のトランプを、1人で持つ。
“ダウト”を言ったのは謙也であり、彼はすっかり勝った気で居た。
その矢先。
「勝ちのためにそこまでやるか・・・・・・」
香澄が思わず、そう言うと、
「それが俺ら四天宝寺のモットーやっちゅー話や!!」
白石は誇らしげ。
「まだ健在やったんですね、それ。 あと、“絶頂”も」
「せや、久しぶりに聞いたわー!」
金太郎が懐かしそうに言う。
「忘れてへんかぁ・・・・・・、金・太・郎」
「え、」
「これ、何や?」
「それは・・・・・・?!」
白石の手には、白い包帯。
白石はしゅるしゅると、それを取っていく。
「待ちぃや!! 毒手は勘弁、いやや!!」
トランプは何処へやら。
金太郎は部屋の隅まで逃げる。
財前も謙也も、香澄も、呆気に取られる。
毒手の持ち主でさえも。
「(まだ信じてたみたいやなぁ)」
白石は、ニヤリ、と微笑む。
「(千歳に教えてやらなあかんな。 23になってもまだ信じとるって)」
香澄が金太郎のトコロへ行って、慰めている様子を見ながら白石は包帯を元に戻した。
「だーいじょうぶや。 金ちゃんが何もせぇへんかったら、もう出さん」
白い笑顔に、金太郎も安堵してこちらへ戻ってくる。
「そんじゃ、仕切り直しやね」
香澄の声で、ゲーム再開。
今1番、手札が多いのは、おそらく謙也だろう。
「(えーと、私が出すのは、Aやから・・・・・・、あれ?ない、)」
香澄はそれを悟られないよう、なるべく笑ってで素速く違うカードを出した。
会話の中で、自然に。
出したのは——、J。
少しだけ、少しだけだが、バレない自信、というモノが確かに在った。
今まで、此処にいる4人とも、香澄の嘘に気がついた者はいなかった。
白石ですら、笑っていれば何もかも誤魔化せていた。
笑っていれば—————、悲しみも寂しさも、苦しみも、紛れた。
それなのに。
どうして?
「ダウト、」
聞き慣れた声が、違う声に聞こえた。
声のした方向を見ると、白石がコドモの様に笑っていた。
「図星やろ? んんー、絶頂!!」
またしても、この台詞。
周りの皆も頷いて同意。
「な、何で?」
明らかに動揺していた。
——バレた。
「何でって、分かりやすいんや、香澄」
白石は何でもないことの様に言う。
確かに、なんでもないことだ。
“ダウト”、と言われたことくらい。
自分のカードが、違うことを当てられたことくらい。
なんでもないのに———
だからこそ、怖くなった。
「そ、そう、かな」
自分は、幾つも嘘を付いて来た。
決してバレない、鉄壁の完璧な嘘を、無意識のうちに。
それと同じように、今、嘘をついた。
なんでもない、嘘を。
バレない筈、バレることなどない筈、なのに。
「笑顔、引きつってるっちゅーねん」
白石の言葉に、貫かれた気がした。
全て、見透かされていたのかもしれない。
「やっぱり、無理あったかもなぁ、Jとか」
感情の隠っていない笑いを続ける、香澄。
「もっと近い数にせな、2とか」
「どっちにしろ、嘘やんけ」
遠くで、財前と謙也の会話が聞こえる。
笑顔を続けるので、精一杯。
——無理、や。
香澄は思う。
——もう、彼を誤魔化すのは、無理や。
私たちは、長く一緒にいすぎた。
「・・・・・・、」
謙也を、ふと見る。
目が合った。
謙也は、“それ見ろ”、と言わんばかりの表情。
「!」
この人は、それが言いたかったのかもしれない。
誤魔化すのは無理だ、と告げるために。
ワザとダウトを——
「ほな、次は白石やな。 香澄!! 俺とええ勝負やな!!」
「あ、そやな、負けへんで」
そうは言うものの、今までの自分の“嘘”が通じていなかったかも知れない、そんな不安でいっぱいで、
勝負になんて集中できなかった。
それからどうやって、このダウトが終わって、どうやって寝たのかも、検討がつかないのだから。