二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.885 )
- 日時: 2010/08/24 19:13
- 名前: 亮 ◆A2rpxnFQ.g (ID: TtH9.zpr)
- 参照: どうして全部、彼方には解ってしまうんだろう?
139 今なら、解るよ
「どや、白石」
香澄は自分の部屋に戻り、財前と金太郎は寝てしまった。
静かな暗い部屋に、謙也の声が響く。
「・・・・・・、何がや」
「分かっとる癖に」
白石は不機嫌そうな顔。
謙也はニコニコしている。
苛立つ程に。
「香澄、か」
謙也は頷く。
「しょーじき、あないに上手くいくとは、思ってへんかったけど」
「やっぱり、ワザとやったんか」
「香澄に話がある、って、言うたやろ」
それもそうか、と白石は納得する。
そして、言葉を紡いだ。
「自分でも、吃驚した」
謙也は、真面目な顔をして聞いている。
「分かるわけない、ってずっと思ってたことが、今はカンタンに分かってしもた」
白石は、何故か寂しそうに微笑んだ。
「嬉しないか?」
それを悟った謙也が、尋ねる。
今度は困った顔をして、笑った。
「自分、ずっと香澄の本音が知りたかったんやろ?それが、やっと分かる様になったんやんか」
「せやなぁ」
「嬉しいと、思わんのか」
ふぅ、と小さくため息。
嬉しくない、そう言えば嘘になる。
やっと、やっと彼女のココロの奥に触れられるかもしれないのだ。
10年前の、自分の願いに対しての彼女の答えが、確かめられるかもしれない。
それは、とても嬉しい。
例え彼女がどんな答えを出しても、後悔はしないと、思う。
だけど——
「今にも、離れて行ってしまいそうな、気ぃするんや」
謙也は、きょとんとしている。
「香澄が今にも、離れて行く様な気がする」
「・・・・・・、なんや、それ」
「よぉ分からんけどな」
白石は笑う。
「悟られるのが嫌いで、答えを出すのが怖くて、香澄は誤魔化してきた。
それが通じんって、分かった時、アイツが俺らの前に居続けると思うか?」
謙也は言葉を失った。
「それは、」
「たぶん、居なくなろうとするやろ」
「・・・・・・ッ」
認めたくない、事実。
香澄の性格を考えれば、解ること。
「今日ので、実感したんとちゃうか? もう“無理”やって」
「・・・・・・、何か俺、余計なことしてしもたな」
謙也が罰悪そうな顔をする。
白石は首を横に振った。
「ええねん。 寧ろ、感謝しとる」
「は?」
「俺は、離れようとするなら、繋ぎ止めるだけや」
それは、8月21日の夜の出来事。
あの全国大会から、あのBRから、11年が経とうとしていた。
——————
どうして。
今まで、あの人は言わなかったんだろう。
きっと、解っていた筈だ。
「それは、私もか」
香澄は、1人嗤う。
隣の部屋には、彼らがいる。
「潮時、かな」
ゆっくりと、目を閉じた。
だが、眠れそうにもなかった。
夢の変わりに、香澄の頭にはオサムと隼人との会話は流れる。
——————
「よぉ、香澄」
居酒屋に入ると、もうオサムと隼人は席に座って待っていた。
さすがに、まだお酒は飲んでいない様だ。
「遅れてすみません」
香澄が頭を下げる。
すると、オサムは笑って、「良いから座れ」と言った。
2人はいつもの格好。
オサムは帽子を被ったまま、そして隼人は黒を基調とした服。
香澄は、スーツを着ていた。
「大人やなぁ、香澄も。 スーツやんか」
茶化すので、香澄は頬を膨らませた。
「会う度にそれ言うの、止めてくださいよ、オサムちゃん」
「あれ、そやったか?」
「そうです」
隣で、隼人が苦笑。
「親戚の叔父さんみたいだな、オサム」
失礼な、とオサム。
この2人の口喧嘩が始まると、中々終わらないので、香澄は口を挟むことにした。
「それで、話って何ですか??」
なるべくニコニコして、香澄は言った。
オサムたちは言い争いを止め、香澄の方に向き直る。
何処か緊張した面持ちだったので、香澄は頭に疑問符を浮かべた。
「? 何か、あったんですか?」
隼人が、首を振る。
「大したことじゃ、ないんだけどな。 一応」
「?」
香澄には、なんのことだか検討が付かず、話も読めない。
相変わらず、きょとんとしていた。
「お前の、母親から連絡だ」
香澄の思考回路は、一時停止する。
母。
母親。
香澄の。
母親。
—————————————————————誰だっけ。
それが、1番に思ったことだ。
「心配だ、会いたい、帰ってこい、そう言っていた」
隼人は、少し寂しげな瞳でそう言う。
「今、更・・・・・・、何、親ぶってんでしょうかね、」
香澄は、冷めた瞳で呟いた。
「どうやって俺の連絡先を調べたかは、知らないけどな。
でも祖母じゃなく、俺に直接してきたってことは、お前に会いたい気持ちが大きいってことじゃないか?」
「そうかも、しれませんね」
香澄は、10年ほど前、親と別れて大阪に来た。
そう、両親に告げた時は、母は泣いて父は怒ったが、無理に止めようとはしなかった。
それどころかこれまで1度も、会いにすら来なかった。
香澄が大阪に、祖母の家に、居ることは、解っている筈なのに。
「でも、本当に、今更」
香澄は、自虐的に微笑んだ。
「時が・・・・・・、私たち親子の間に出来た溝、埋めてくれたとでも、思ったんやろか」
隼人もオサムも、何も言わなかった。
「勝手なのは、お互いサマやけど、そんなカンタンなもんとちゃうことくらい、何で解らんのやろ」
悲しそうに、微笑んだ。
隼人が口を開く。
「俺たちも、親に売られ、親を捨てた身だから、言えたことじゃないけどな」
オサムも、頷いた。
「逢ってきたら、どや?」
オサムは笑っていた。
「え?」
香澄は思わず聞き返す。
「お母さんに逢って、お父さんに逢って、話をしたらやどって、言うてんねん」
「でも、私」
尻込みする香澄に、オサムは更に続けた。
「中学の時俺に、“逢わなきゃ解らない”って言うたの誰や」
香澄は、俯いていた顔を、上げる。
「これ、今の母の連絡先だ」
「・・・・・・」
隼人は香澄に1枚の紙を差し出す。
「手紙でも、電話でも、なんでもいい。 連絡、取れ」
香澄は、小さく笑った。
「気が、向いたら」
オサムも隼人も優しく微笑み、頷いた。
「ほんなら、食べよか」
それから1時間程、飲んだり食べたりを繰り返し、解散したのだ。
——————
香澄は、ベットの上に携帯と紙を用意した。
紙とは、隼人に渡されたモノだ。
記してある電話番号を、押し始める。
——私の人生の軌道を、元に戻そうとしてくれている人がいる。
——歪んでしまった私を、戻してくれる人がいる。
——気がついていながら、笑って側にいてくれる人がいる。
——溝を、埋めようとしてくれている人がいる。
『はい—————————————』
あぁ、お母さんだ。
「私、香澄————————————」
久しぶり、長い間、本当にごめんな。
泣かないでよ、こっちだって、泣きたくなるやんか。
え? 喋り方?
うん、大阪弁にすっかり慣れたんよ。
お母さんこそ、なんだか優しい声になったような気ぃするで?
お父さんは、元気?
そんな会話が、普通の親子の会話が、何分も、何十分も、何時間も、続いた。
『香澄、』
不意に、名を呼ばれる。
「何?」
流れる涙を、拭いながら。
『あの時は、本当に、ごめんなさい』
今なら、解るよ、
たくさんのモノを失ったのは、私だけじゃない。
お母さんもお父さんも、桃のお母さんもお父さんも、皆皆—————
「もう、良いよ」
それは、和解の瞬間だった。
全てを許し、皆の死を過去に流すワケでは、ない。
だけど、確かに。
母を受け入れた。
『ねぇ、香澄』
「ん?」
『戻って、来て』
さぁ、私はどうしよう?