二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.890 )
日時: 2010/08/28 12:28
名前: 亮 ◆A2rpxnFQ.g (ID: TtH9.zpr)
参照: どうして全部、彼方には解ってしまうんだろう?

 140 手を振ろう




「予定が早まった!! 来週の予定やったけど、明日や!!」


焦ったような、金太郎の大声。
これが電話の向こうから聞こえてきたのは、8月22日のこと。


———そして、今日。
8月23日。
あおの全国大会決勝から、11年目。





金太郎が、アメリカに飛び立つ———————





自分より遙かに強かった、あの日のライバルたち。
越えたくても、越えられない、ライバルたち。
だけど、決めた。
強くなると。
今は弱い。
だけど、絶対に、ライバルたちに恥じないくらい、強くなると———



——————



某空港。
8月23日の、夕方。
四天宝寺OBは、仕事の都合をつけ、見送りにやって来た。
勿論、香澄もだ。

「金ちゃぁん!!」

香澄は何の躊躇もなく、金太郎に抱きつく。
それは姉弟のように見えた。
香澄は大きくなった金太郎に、少しだけ背伸びをして抱きついた。
いつもと、逆の光景。

「香澄、苦しいわぁ・・・・・・」

金太郎は苦笑。
だけど、迷惑そうな顔ではない。

「ね、金ちゃん、忘れ物、ない?! パスポートとか、ラケットとかぁぁあ!!」
「だいじょーぶやって、香澄ぃ」
「だって、だって」

母親の様なことを口走る。
金太郎は頬を膨らませた。

「もうコドモやないんやから、平気やって」
「いーや! コドモや、金ちゃんはコドモ」
「なんやそれぇ」

しばらく顔を顰めていたが、金太郎は微笑み、香澄の額をポン、と叩いた。



「しゃーないから、向こうで世界取って、大人やって認めさしたるわ!!」



いつもの、自信に満ちた表情で。
少しの、脅えもなく、少しの、自惚れもなく。

「楽しみにしとるわ」

香澄も、答えて笑った。


——さっきは、“コドモ”やって、言うたけどね。





——見上げるキミは、もうどう見たって大人だった。





逞しく、そして、格好良く。


「皆、見送りありがとうな」


金太郎は皆を見渡しながら、言う。

「寂しいわぁ!! 金太郎さん!!」

小春が香澄に続き、金太郎に抱きつく。
そしてどさくさに紛れてユウジが後ろから。

「俺がおるでぇ!小春ぅ!」

小春が一瞬だけ心底苛立った顔をしたのを、香澄は見逃さなかった。

「向こうでも、しっかりやるとよ??」
「心乱れた時は、座禅や、座禅」
「俺たちは、いつでも応援してるからな」

千歳、銀、健二郎も、口々に言う。
次に、財前が照れくさそうに言った。

「うるさいのおらんなって、これで平穏に暮らせるわ」
「光ぅ、それはないんとちゃいまっか」

金太郎が冷めた顔でツッコむ。
その後ろから、謙也が金太郎の後ろ頭を叩いた。

「たまには連絡しぃや、金ちゃん」
「何や、謙也はワイがおらんなって寂しいか」
「そ、そんなんちゃうけど、まぁ、金ちゃんが寂しい思てな、俺が気ぃ遣こうて言うてんねんで??決して寂しいとか、そんなんとちゃうで??」


「白石ぃ!!」


金太郎は謙也をスルーし、白石とオサムの元へ駆け寄る。
白石は優しく、いつも通り微笑んでいた。


「とうとう、やな。 頑張りや」


金太郎は、頷いた。

「まぁ、テレビで放送されるの、待ってるわ」

オサムも、いつも通り。

「そうすぐに試合はないけどな」

金太郎も笑う。
そうしているうちに、アナウンスが流れた。



「・・・・・・、ほな、またな」



妙にしんみりした空気が、流れた。
香澄もふいに寂しくなってきた。

「金ちゃん、」

名前を呼ぶと、金太郎はニカッと笑った。

「色々、ありがとう、香澄。 助かったわ」
「なんや、急に改まって」

香澄がそう言うと、金太郎は笑って歩き出した。
進む。
前へ。
振り向くことはしないで。
決めた道を、突き進む。
強さを、求めて。





「またな!!!」







手を振ろう。
昨日までの、弱いキミへ。
手を振ろう。
今日からの、新しいキミへ。
一歩踏み出した、これからのキミへ。


いつか、いつか、いつか。
此処で、何処かで、再会した時。



今よりもっと、もっともっと、大きく笑えるように。







「行ってしもたな」

謙也が呟く。
飛行機が、飛んでいる。

「そうですねぇ」

夜空を見上げて、財前が言う。

「金ちゃんなら、大丈夫や」
「せやな」

香澄と白石が、言った。


「ほんなら、俺らはこれで」


謙也と財前は、同じ方向に帰り出す。
手を振りながら。

「またなぁ」

白石も、ヒラヒラと振った。
そして、香澄に向き直る。







「今日、誕生日やろ。 どっかで、食事でもして行こか」







香澄の顔が、パァってと明るくなったのは、言うまでもない。



——————



着いた場所は、綺麗でおしゃれな店だった。
仏蘭西料理店の様で、なんとなく、カップルが多いようにも見えるのは、香澄の気のせいだろうか。

「此処・・・・・・??」

車を降りて、香澄が呟く。
白石が此方を見ていた。

「いややったか? 謙也が、此処が美味いって言うてたんやけど」
「へぇ、謙也がねぇ。 嫌やないよ、いつもと違いすぎて、吃驚しただけ」
「いつも??」

白石が、きょとん、として訊く。

「ほら、焼き肉、とか」

香澄は無邪気に笑って答えた。
白石は苦笑いをしてみせる。
  




                      「今日は、特別、やから」





夕日も沈んだ夜空を、見上げながら。

「え?」
「否、何でもない」


——キミを無理矢理繋ぎ止めようとする、俺を許して。


「ほな、行こか」

さりげなく、本当にさりげなく、手を握ってみた。
香澄は、それに気がついているのかそうでないのか、特に気にする様子もなく。

「うん」

笑って、笑って、そう言った。