二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.898 )
日時: 2010/09/03 17:53
名前: 亮 ◆A2rpxnFQ.g (ID: TtH9.zpr)
参照: 彼方のためです。サヨナラ。

 142 分かってないよ




「分かってないわ、香澄は」

白石は吐き捨てるように香澄に言った。

「なんや、それ・・・・・・」

香澄はそっぽを向いて言う。
しばらく目をそらしていると、椅子の動く音がした。



「ちょっと、出よか」



——————



向かった先は、そのレストランのあるビルの屋上。
移動中、2人が言葉を交わすことはなかった。
屋上に出ると、星空が広がっていた。

—————それは、あの地獄で見たモノと、何も変わらない。



「俺やったら、駄目か??」



白石は何時になく人懐こい表情で尋ねる。

「・・・・・・蔵がどうだとか、そういうんじゃないんや。ただ、私が駄目なだけ」

香澄は白石と目を合わせようとしない。
お互い隣同士に、ベンチに腰掛ける。

「駄目やないで、俺は香澄のことがスキや」
「駄目。私と結婚しても、蔵は幸せになんかなれない」
「・・・・・・、どうして」

白石は真剣な瞳で香澄を見つめた。


「スキな人と、結婚出来るんやったら、1番幸せなコトやろ??」


——あぁ、

———ずっと言えなかったのに。



今なら、何故こんなにも自然に、“スキ”と声に出せるんだろう。





「俺の幸せを思って、断ってんやろ?? せやったら、俺の幸せ思って、受け入れてくれんかな??」





———俺はなんて、残酷なコトを。



「く、ら」

香澄は困った表情をしてみせる。

「そん、なの・・・・・・、違うよ。私に、誰かを幸せにする力なんて、ない」
「そんなことない、側におってくれるだけで、幸せや」

香澄は強く首を振る。
精一杯の、否定。
結婚を選べば、自分が楽になる。
苦しみも、悲しみも、隣にいる彼が半分にしてくれる。
半分、背負ってくれる。
一緒に、生きてくれる。


だけど、だけど、だけど。


それは、全て、自分の幸せ。
幸せを選べば—————、それは1番大切な彼を、不幸に貶める。

それにほら、誓ったじゃない。





何があっても幸せになってはいけない、と。





「なぁ、香澄」

今から、すごくすごく、残酷なコトを言うよ??





「桃城クンは・・・・・・もう、何処にもおらん」





ああ、俺は今、どんな表情[カオ]をしているのだろう。

「何処へもおらん、呼んだって来てくれへん」

初めて逢った時以来の、香澄の泣きそうな顔。

「思い続けても、無駄なんや」

白石の言葉1つ1つに、香澄は身体を強ばらせる。
眉を歪めて、目に涙を溜めて、白石をただただ見つめた。


「ほんなら、俺のトコロに来ればええやん」


そこで香澄は口を開いた。

「そんな、簡単な話やない」
「簡単や」

落ち着いた口ぶりでそう言い、香澄を抱き寄せた。

「く、らっ」
「簡単な、話や」
「蔵!!」

香澄を抱き寄せたその腕は、暖かく、優しく、そして何故だか、震えていた。





「最初に、言うたやろ?? 全部、受け止めるって」





糸が切れる。
自分を縛っていた糸が。
迷惑を掛けている、皆気を遣ってくれている、そうやって溝を深め居てたけれど、

本当は、本当は——————


「矛盾してるで、香澄」


「誰にも迷惑掛けたくない、もう誰も傷つけたくない、そう思てる癖に、どうして大阪へ来たんや??」





「それは、やっぱり、支えが欲しかったんやないか??」





そうだね、そうだね。
確かに、辛くて苦しくて、どうしようもない時に、彼方は自然に私のココロへ入って来た。
そして、優しく強く、愛をくれた。

だからこそ、私はせめてもの償い。
巻き込んだからこそ、私は、これ以上彼方の人生を狂わせないよう———、“サヨナラ”を告げる。

確かに、矛盾してるね。
“憎しみ”を持って生きることはおかしい、とか。
皆のために、精一杯生きる、とか。
そんなコト言っておきながら、私。

目の前に在る、幸せ。

捨てちゃうんだから。


本当、可笑しくて、可笑しくて、護られてばかりで駄目すぎて。
笑っちゃう。





だから、最後だよ。





最後の、笑顔。 ——————————勿論、本物、だよ??




















「私、東京に、戻ろうと思う————————」










それから蔵は、どんな表情[カオ]をしただろう。
どんな風に、私の笑顔の意味を受け取っただろう。
よく覚えていない。

ただ、何も言わずに、レストランに戻りワインを呑んだ。






「ご、めん、ごめんな、さい、桃、」





あぁ、やっぱり、俺やったら、駄目ですか??