二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.899 )
- 日時: 2010/09/04 18:41
- 名前: 亮 ◆A2rpxnFQ.g (ID: TtH9.zpr)
- 参照: 強くて凛々しかった彼方なら、どんな選択をしますか??
143 過去形に出来ない想い
「えぇ?! 東京で編集者に?!」
突然の、編集長の言葉。
「せや、キミの才能を買ってくれたみたいや。キミは出身が東京だし、問題ないやろ??」
「はぁ・・・・・・」
「心配いらんよ、決断までにもう少し時間があるか、じっくり考えや」
なんて、タイミングが良いんだろう。
香澄は思う。
———潮時、だ。
「あの、編集長———————」
——————
『東京に?! 何時?!』
「んー、何時やろ、たぶん8月中には」
『そんなに早く?!』
「うん」
香澄は、少しずつアパートのモノを片付け始めていた。
もうほとんど、段ボールに詰まっている。
「お母さんも、“帰ってきて”って、言うてくれとるから」
香澄はいつになく、暖かく頬笑む。
『それは良かった。 本当、中学の時突然いなくなって、寂しかったよ??』
「それはすみません、葵先輩」
『ううん、良いよ』
明るい声が、電話の向こうから聞こえてくる。
きっとニコニコして、ベットににでも転がって喋っているのだろう。
「先輩、なんだか元気ですね」
香澄は何気なくなく呟く。
途端に、葵からの返答がなくなった。
「先輩??」
沈黙が、しばらく続く。
珍しく長かった。
———携帯、壊れた??
そう、錯覚するほどに。
『香澄ちゃん、』
「うわっ先輩!! びっくりしたぁ、何してたんですか?!」
香澄が驚いて大きな声を出す。
“何をしていたのか”、そう尋ねたにも関わらず、葵は全く別のコトを言い始めた。
『ダサイんだけどさぁ・・・・・・、聞いてくれる??』
「・・・・・・全然、構いませんよ」
『長くなるけど、私から掛けたから、問題ないよね』
「はい」
巫山戯たことを言いながら、軽く笑う葵。
———私・・・・・・、
———人の気持ち見抜くの、苦手なんだな
改めて、自分の欠点が見えて、少し情けなくなった。
『驚かないでね??』
「話聞いてからじゃなきゃ、分からないです」
香澄がそう言うと、“そうだね”と笑った。
『私、ね』
『結婚、するんだ』
「え、」
結婚??
『私さ、26歳になったし、いい加減に、ね』
葵は依然、笑ったまま。
香澄は驚かないで、と言われたものの、驚いている。
『お母さんがさ、粋なり話持ってきてさ。まだちょっとしか、相手のコト知らないの』
香澄は何も言わずに、耳に携帯を当てていた。
『そりゃぁ、さ。 心配にもなるよねぇ』
『——————————中学の頃から、1回も恋愛してないんだもん』
『て、言うよりさ、できない・・・・・・、んだけどね』
香澄には、痛いくらい分かった。
“出来ない”んだ。
いつも、いつまでも、ココロには、大好きな人がいる。
大好きだった、に出来ない。
今でも、ずっと、ずっと・・・・・・
『今でも、ね。夢とか見ると、目が覚めた時、隣にあの人が・・・・・・、手塚が、いる気がするんだ』
胸に、ぽっかりと穴が開いて。
それは誰にも埋められない。
自分自身でも、埋められなくて、どんどんどんどん、深まるばかり。
『ごめんね、長い話』
「いえ、私も、同じ、ですから」
『そう??』
葵は、少し声のトーンを上げて訊く。
「はい、今もずっと、面影を捜して、前に進めてないです」
香澄は自虐的に微笑んだ。
その笑みは、葵には見えていないのだが。
『・・・・・・、香澄ちゃん、何かあった??』
遠慮がちに、尋ねる葵。
「どうして、ですか??」
『んー、なんだか、無理してる感じ、在るよ』
心臓が大きく飛び跳ねる。
葵は、香澄とは違うらしい。
———この人は、人の気持ちを見抜ける人だ。
隠しても、無駄だ。
「私の話、長くなるんで、かけ直します」
『え、良いよ??』
「いえ、待っててください」
『え、香澄ちゃっ』
一方的に電話を切り、再度葵の番号にかけ直す。
葵は大きな声で怒鳴ってきた。
『もう、良いって言ったのに!!』
「すみません」
香澄は苦笑い。
「でも、本当に長くなるんです」
「昨日、のコト、なんですけど」
————————————サヨナラ。
彼方に告げる日は、もう近いかも知れません。