二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: バトテニ−サヨナラ、− [テニプリ] ( No.900 )
日時: 2010/09/05 17:53
名前: 亮 ◆A2rpxnFQ.g (ID: TtH9.zpr)
参照: 強くて凛々しかった彼方なら、どんな選択をしますか??

 144 And, is it good?




「だから、断って———、勢い余って、東京に戻ることまで、言っちゃったんですよ」


香澄は、冗談を言うように軽い口調で話した。
それとは逆に、葵は少し小さめの落ち込んだ声だ。

『・・・・・・、大丈夫?? 香澄ちゃん』
「え? 私は、全然」

そう返すと、葵は小さくため息をした。


『ずるいね、香澄ちゃんは。本当の自分、全く見せてくれないね』


葵は「仕方ないか」、と付け足して笑った。

「すみません」

なんだかすごく、申し訳ない気がして。
口から懺悔の言葉が漏れる。

『良いよ、全然。あ、戻って来るとき、連絡してね、駅まで迎えに行く』
「ええんですか??」
『うん、早く逢いたいし。私の結婚、9月だから、まだ忙しくないしね』
「ありがとうございます」

香澄はそう言い、葵に東京へ戻る日を伝えるためカレンダーの前まで行った。
カレンダーには、大きく○をしてある。

「えっと・・・・・・28日にはそっちに行きます」
『今日が26日だからぁ、明後日?! 早っ』
「早いほうがええかなって、1日からは仕事やし」

完全に話題が変わり、もう電話を切ろうか、と言うときだった。





『・・・・・・、本当に良いの??』





葵の遠慮がちな声が聞こえた。

『それから、彼とは会ってるの??隣に住んでいるんでしょ??』

心配するような口調の葵に、香澄は安心させるように言った。
全く、安心出来るような内容ではないが。


「会って、ないです」


23日の夜の記憶が香澄にはない。
情けないことに、お酒で酔って、飛んでいったらしい。
寄った勢いで何か余計なコトを言ってしまいそうで、白石の前で酔うことは避けていたのに。
それから、気まずくて会っていない。
向こうも心なしか、避けているような気がする。

『東京に戻る時くらい、会いなよ??』
「え」
『黙って行こう、とか、考えちゃ駄目だよ』

葵はいつも、的確なコトを言う。
まさに、香澄は黙って行くつもりだった。

「どうして・・・・・・っ」



———どうして、分かるんですか??



どうして、ココロが分かるんですか。
どうして、そんなふうに強く生きているんですか。


香澄の脳裏に、青学女子テニス部を全国大会まで導いた、日向葵の背中が浮かぶ。





強く凛々しかった彼方には、何が見えて居るんですか??





『香澄ちゃん??』

香澄が何も返して来ないので、葵が名前を呼ぶ。


『絶対ね、大好きな人たちを悲しませちゃ駄目』


葵は、香澄の返事を待たずにしゃべり続ける。





『もう大丈夫って、笑って“サヨナラ”しなきゃね』





心配させたくなくて、迷惑かけたくなくて、弱さを見られたくなくて。
強く、生きたくて。
いつも1人で、藻掻いてた。
差しのばされた手にも、池の浅さにも気がつかず、藻掻いていた。


自分が弱いことを認められないのが、1番の弱さだった。


金ちゃんの言葉で気がついた。
認められたこの人は強い、と。
謙也の“ありがとう”で気がついた。
乗り越えて本当の笑顔で笑えるこの人は強い、と。


蔵の全ての言葉と行動と、温もりで、気がついた。


愛を他人に上げられるこの人は強い、と。



そして、





私は、弱い、と。





電話を切って、1人ベットに転がる。
見上げた天井に、様々な思い出が駈け巡る。







「ちゃんと、笑って、サヨナラ」







————————————言わなきゃ。